コーエン兄弟の映画『オー・ブラザー!』は、1930年代のアメリカ南部を舞台にしたコメディーで、ロード・ムービー風でとても楽しい物語となっていますが、その中で使われている音楽がこれまた素晴しいのです。
本国アメリカでは、この映画のヒットにともないサントラ盤も100万枚以上も売れて、それまではこういう古臭い音楽なんて見向きもしなかった若者までもがこのサントラ盤を買い、これにノック・アウトされて初心者用のバンジョーやマンドリンまでも買ってしまう人が続出しているということです。まさに「社会現象」の一つになってしまったわけですが、確かにこの映画のパワーってのはものすごいようです。映画を見終わった後に、思わずCDショップへ走ってサントラを買い求めたくなってしまう、そんな気持ちに駆り立ててしまう何かがあります。 さらには2001年度のグラミー賞において、U2、ボブ・ディランなどの巨匠たちを押さえて「最優秀アルバム」に選ばれ、ナッシュヴィル産の作品としては史上初の快挙ともなってしまった(日本のマスコミにはほとんど無視されていたようですが…)のです。このサントラの大ブレイクには、2001年9月に起こった米国テロ事件の影響によって「安らぎ」を求める傾向が強まっていたせいだ、という見方もあるほどです。 まぁそれはともかく、このサントラ盤は、やはり単なるサントラ盤以上の魅力があるのは確かです。つまり、単なる「寄せ集め」的なアルバムではなく、大部分がこのサントラのために新たにレコーディングされたもので、大御所も若手も入り乱れて現在活躍しているアーティストが多数登場しています。しかも、そうそうたる顔ぶれがそれぞれの個性を発揮しつつも、ばらばらな印象ではなく、きちんと1枚のアルバムとして仕上がっているのには感心します。その点では1972年に発表されたニッティ・グリティ・ダート・バンドの『永遠の絆(Will the Circle Be Unbroken)』に通じるものがあるのではないでしょうか。 この傑作アルバムを見事にまとめあげているのがプロデューサーのT・ボーン・バーネットです。彼はロック界においてももちろん大活躍していますが、『モンタナの風に抱かれて』など、映画音楽もけっこう手掛けているのです。 さて、このサントラ盤の内容の方ですが、前述したとおり、ただ映画で使われた曲を集めただけというアルバムではありません。選曲、演奏、そのどれをとっても素晴しいので、良質のルーツ・ミュージックのコンピレーションとしても楽しめるのではないでしょうか。ぼくの場合もこのサントラ盤で初めて演奏を聴いて、今度この人のアルバムを買ってみたいなぁと思ったり、いろいろと勉強になる部分も多かったように思えます。 さらに余談にはなりますが、このアルバム、サントラ盤としては珍しくブックレットも充実していて、解説もたっぷりあるのです。アート・ワークもなかなか素晴らしいので、買うならぜひ輸入盤の方がお薦め(国内盤は味気ないただのプラケース入りなので…)です。 ところで収録曲ですが、子供の頃から馴染んでいた曲の一つである「You Are My Sunshine」があります。これはルイジアナ州知事だったジミー・デイヴィスの作で、元々は選挙のキャンペーン・ソングとして作られたものということです。ここでは前述の『Will the Circle Be Unbroken』にも参加していたノーマン・ブレイクが枯れた味わいの歌声&ギターを聴かせてくれます。 それから他にも、ベテラン勢ではこのサントラで歌った「O Death」で(KKKの集会の場面で登場していた曲)、御年75歳にして初のグラミー受賞となったラルフ・スタンレーの存在感はやはり圧倒的です。最後に登場しているスタンレー・ブラザーズによる「Angel Band」も素晴らしいではありませんか。 そしてこのサントラ盤、およびこのサントラに参加したアーティストらが集まったコンサート「Down from the Mountain」が遺作となってしまった、ジョン・ハートフォードの演奏が聴けるのも嬉しい限りです。享年65歳だったそうで、ご冥福をお祈りいたします。 若手では、このサントラ盤だけではなく、自身の作品でも各賞総なめ状態のアリソン・クラウスとユニオン・ステーションの面々がひときわ光っています。彼女の清澄なボーカルが印象的な「Down to the River Pray」、そしてなんと言っても、「スブ濡れボーイズ」が歌う「I'm a Man of Constant Sorrow」、これは実際にはユニオン・ステーションのメンバーでもあるダン・ティミンスキがリードを歌っていて、これまた素晴しいギター演奏も彼の手によるものです。しかもこの曲、何とあの『空耳アワー』にも登場していました。 それからこのダン・ティミンスキを含め、ユニオン・ステーションのメンバーは他の曲にも色々と参加していて、中でも映画でデルマー役を演じたティム・ブレイク・ネルソン&ユニオン・ステーションといった感じの「In the Jailhouse Now」が最高です。この曲は1920年代に活躍したジミー・ロジャースの作です。 他にも、登場場面は少ないながら強烈な存在感のギリアン・ウェルチ、アリソン・クラウスとのデュエットによる「I'll Fly Away」もいいし、さらにエミルー・ハリスを加えた3人娘(?)による「Didn't Leave Nobody But the Baby」はまさに魂を抜かれてしまいそうなほど魅力的です。 PO LAZARUS*-James Carter & the Prisoners BIG ROCK CANDY MOUNTAIN*-Harry McClintock YOU ARE MY SUNSHINE-Norman Blake DOWN TO THE RIVER TO PRAY-Alison Krauss I AM A MAN OF CONSTANT SORROW-The Soggy Bottom Boys HARD TIME KILLING FLOOR BLUES-Chris Thomas King I AM A MAN OF CONSTANT SORROW-Norman Blake KEEP ON THE SUNNY SIDE-The Whites I'LL FLY AWAY-Alison Krauss and Gillian Welch DIDN'T LEAVE NOBODY BUT THE BABY-Emmylou Harris, Alison Krauss and Gillian Welch IN THE HIGHWAYS-Sarah, Hannah, and Leah Peasall I AM WEARY (LET ME REST)-The Cox Family I AM A MAN OF CONSTANT SORROW-John Hartford O DEATH-Ralph Stanley IN THE JAILHOUSE NOW-The Soggy Bottom Boys I AM A MAN OF CONSTANT SORROW-The Soggy Bottom Boys INDIAN WAR WHOOP-John Hartford LONESOME VALLEY-Fairfield Four ANGEL BAND*-The Stanley Brothers Produced by T Bone Burnett (except *) (次回に続く) 人気blogランキングへ
by scoop8739
| 2004-07-20 21:10
| プロローグ
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