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312 「ニューグラス」への道(その30)

ブルーグラス・アライアンスの登場

1960 年代半ばになると南東部のブルーグラス・ミュージシャンの中には、フォークやカントリーから吸収したモダンな感覚をまったくブルーグラス音楽の範囲で演奏しようと試みる人たちが出てきます。彼らはブルーグラス音楽にあまり関心のないナシュヴィルという環境の中でブルーグラスの新生面を切り開いて行こうという試みに取り組みます。

この動きを称して「ナシュヴィル・ピッキン・セッション」と言いますが、これに参加していたのがロイ・エイカフのバンドでギターを弾いていたチャーリー・コリンズ、ジョニー・キャッシュのレコーディング・セッション・マンとして売り出し中のノーマン・ブレイク、ポーター・ ワゴナーのバンドでフィドルを弾いていたマック・マガーハ、そしてバンジョー奏者のラリー・マックニーリーという人たちでした。

中でもドック・ワトソンのクロス・ピキング奏法にクラレンス・ホワイトからのブルージーなシンコペイションを使ったアドリブを多用したようなノーマンのリード・ギターと、アール・スクラッグスとドン・リーノウのパターンをミックスし、細かいブリッジの部分にビル・キースや当時ナシュヴィルで人気の出てきたボビー・トンプソンのクロマチック・ロールを巧みに挿入して独自のスタイルとしたラリーのバンジョーはとても個性的なものでした。

312 「ニューグラス」への道(その30)_a0038167_15172700.jpgそれから1年後、ナシュヴィル・ピッキン・セッションをさらに大衆化した形で、1968年にケンタッキーからブルーグラス・アライアンスが登場します。メンバーはギター奏者のダン・クレアリーとベースのイーボ・ウォーカーを中心に、バディ・スパーロックのバンジョー、ダニー・ジョーンズのマンドリン、ロニー・ピアスのフィドルが絡むといったもので、さながらナシュヴィル・ピッキン・セッションを彷佛とさせました。彼らはフォークを思わせるヴォーカル・スタイルやハーモニーをブルーグラスのリズムに本格的に溶け込ませたという点で初めてのバンドとなりました。

この演奏スタイルはビル・モンローやスタンレー・ブラザーズなどのトラディッショナルなバンドとは一線を画し、フォーク・リヴァイヴァルでブルーグラスのファンとなった第三世代ともいわれる層に瞬く間に広がっていったのです。

312 「ニューグラス」への道(その30)_a0038167_15174253.jpg彼らはデビューから1971年までの4年間にわずか2枚のアルバムしか残していません(残念ながらどれもCD化されていません)が、ブルーグラスの新時代を予言するかのように2作目のアルバムは「ニュー・グラス」とタイトルされ、新しい時代の先鞭をつけたのでした。

アライアンスはその後メンバー・チェンジを繰り返します。クロス・ピッキングの名手ダン・クレアリーが抜けた後のギターにはクラレンス・ホワイトの流れを汲む新星トニー・ライスが入団してきます。そして1970年初秋にマンドリンのサム・ブッシュ、そのすぐ後の11月にはバンジョー奏者のコートニー・ジョンソンが加入しています。こうして設立メンバーはフィドル奏者のロニー・ピアスとベース奏者のイーボ・ウォーカーだけとなってしまったのでした。

このバンドの評価は高く人気もあったのですが、収入面では苦しい状況が続き、トニーはサムと共同生活をはじめます。この期間に二人は自分たちの演奏に生かす糧として、ブルーグラスにとどまらず様々な音楽に触れたといわれています。彼らの間にはより新しいものを求めようとする何かが煮えたぎっていたのでした。


by scoop8739 | 2018-08-27 15:24 | Road To New Grass
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