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280 至高のサウンド(その34)

アルバム『洗礼』曲解説(B面)

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B面1曲目「テイク・ヒム・イン」はブルーグラス・ヒムのエッセンスに溢れた作品です。これもまたローゼンタールの自作曲です。なかなか作曲のセンスがいいですネ?

2曲目「天国行きの貨物列車」は、Youtubeにもアップされている「バーチメア・レストラン」でのライヴでも聴くことが出来ます。そこではダフィーが「次のアルバムに入れる曲」だと話しています。収録されたのは19761114日となっていますので、その頃には既にこのアルバムの準備が進められていたようです。この曲はアルバムでのスターリングの歌唱として1番の出来だと思われます。まさしくシーンでの最後のアルバムとなるにふさわしい名唱となっています。メンバーの演奏も実に素晴らしく、スターリングとの別れを惜しみつつ、かつ門出を祝福しているかのような感じがします。後にスターリング自身がこの曲をソロ・アルバム『長い時が経って』(Long Time Gone)に収録しています。かなりお気に入りの曲だったのでしょう。

バンジョーの軽快なイントロに始まる3曲目「帰る準備はできたかい?」は、『アクト2』に収録の「黄金の家に住むよりも」、『旧い列車』に収録の「古い十字路」、『新しいセルダム・シーンのアルバム』に収録の「人生の絵画」などと同様のハンク・ウィリアムス自作曲です。こうしてみるとシーンはハンクの曲をずいぶんとカッコよく定型的なブルーグラスにアレンジして演奏しています。そしてスターリングが前曲に続いての名唱です。他のメンバーの間奏も実に素晴らしい!

4曲目「そこにいましたか?」(Were You There ?)は、ジョニー・キャッシュやハリー・ベラフォンテなどによって歌われたアメリカ独自の宗教歌です。最初は無伴奏でダフィーのリードから、すぐにスターリングとローゼンタールとオゥルドリッヂがコーラスに加わります。「彼らが私の主を十字架に張付けた時、あなたはそこにいましたか?」を繰り返し、3行目の歌詞「震える、震える、震える」(trembletrembletremble!)というところのコーラスがとても美しく響きます。単純な歌詞だからこその説得力と精神性が感じられる曲です。

ギターのイントロで始まる5曲目「ウォーク・ウィズ・ヒム・アゲイン」はローゼンタールの曲で、ダフィーとのコーラスはスターリングとは違ったソフトでメロウな趣きがあります。モダンで凝った演奏と曲調がシーンに新しい風を起こしています。

6曲目「ゴスペル・メドレー」は伝統的な宗教歌のメドレーです。無伴奏コーラスから始まる「アメイジング・グレイス」(Amazing Grace)をスタートに、フラット&スクラッグスでお馴染みの「ゲット・ライン・ブラザー」(Get In Line Brother)、ビル・モンローの得意とする「スィング・ロウ・スィート・チェリオット」(Swing Low Sweet Chariot)、そしてラストはハンク・ウィリアムの「灯りが見えた」(I Saw The Light)と綴られます。このゴスペル・メドレーは当時のシーンのステージでフィナーレを飾るものでした。ダフィーの気合いの入ったリード・ヴォーカルとローゼンタールが加わったコーラスは重量感があってなかなかのものです。

『洗礼』(Baptizing)と題されたこのアルバムは、スターリング在籍時のセットと、新しく加入したローゼンタールでのセットを交互に組み込んだ鮮やかな手法で新旧交代を演出しています。つまり、さりげなくソフトに“新生セルダム・シーン”を紹介したものとなりました。

そしてアルバムは197810月にリリースされます(Rebel Records SLP 1573)。日本盤の発売は1979年になってからのことでした(Seven Seas GXF 6024)。

その当時、カウンティ・レコード社々長のデイヴ・フリーマンが語っているところによると、このアルバムは、選曲、ヴォーカル、ハーモニー、バックアップのどれをとっても非の打ちどころのない、1970年代のゴスペル・アルバムとしてはナンバー・ワンのアルバムであると言っても過言でないというものでした。


by scoop8739 | 2018-05-14 08:56 | セルダム・シーン
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