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263 至高のサウンド(その17)

アルバム『アクト3』曲解説(B面)

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一変してブルース調でしっとりと歌われるB面1曲目「マディー・ウォーター」は、A面4曲目の「ウィリー・ボーイ」と同じフィル・ローゼンタールの作です。この曲を哀愁たっぷりと歌いこなすスターリングはそれまでのブルーグラス界にはいなかった “歌に感情を込める”繊細さを持ち、器用で達者なヴォーカリストです。この曲でも控えめにフィドルが鳴っていていい感じです。

そんなスターリングのオリジナル曲が2曲目「ミーン・ママ・ブルース」です。流麗なドブロのイントロからギターのソロに続き、巧みなスターリングの歌い回しと力強いコーラス・ワークが続きます。そこへ歯切れのよいエルドリッヂのバンジョーが割って入ってきてメロディックやプリング・オフを巧みに取り入れた間奏で曲を盛り上げていきます。この途切れることのない流れるようなバンジョーのノートの選択とアクセントを紡ぎだすロールは、当時ではアラン・マンデと双璧をなすものでした。まさに神業です。ちなみにリード・ギターはゲスト・プレイヤーのクレイトン・ハンブリック(Clayton Hambrick)でした。

そんな思いで涙していると3曲目「シング・ミー・バック・ホーム」が始まります。この曲はカントリー歌手のマール・ハガードの自作曲で、オリジナルは1967年に発表されています。その後エヴァリー・ブラザースを始め、ジョーン・バエズ、フライング・バリトゥ・ブラザーズ等に歌い継がれてきました。スターリングはそのオリジナルに比べてグッと控えめに歌っています。こうした感情を抑えた歌い方をすることでこの曲の美しさが強調されます。さすがです。ちなみにこの曲は「ローリング・ストーンズ」のギタリスト、キース・リチャードの愛唱歌でもありました。

次の4曲目「インディアン万才!」は一転して軽やかなバンジョーから始まるインスト曲です。シーンの地元ワシントンD.C.をフランチャイズとするアメリカン・フットボール・チームの名門「レッド・スキンズ」がナショナル・フットボール・リーグで初めて採用した戦闘曲でした。セルダム・シーンも実際にホーム・ゲームでこの曲を演奏したそうです。ちなみに“レッド・スキンズ”とはインディアンの別称のことですが、実際に赤いヘルメットの側面にはインディアンのイラストが描かれています。最後のところでバンジョー・ソロにからむダフィーの「ディキシー・ランド」(Dixie’s Land)のメロディーがいい味を出しています。

エルドリッヂの弾く穏やかなギターのイントロで始まる5曲目「ホワイト・サテン」は、カントリー・ジェントルメン以来のコンビ、アン・ヒルとジョン・ダフィーの共作によるエコロジーをテーマにした曲です。彼らは社会問題を扱ったフォーク調の作品を多く作っています。始めはダフィーとスターリングによるユニゾンで歌われ、続いてダフィーの感情を抑えたソロとなります。バックで鳴っているドブロの音が哀愁を帯びて聴こえます。

マンドリンのイントロで始まる6曲目「ヘヴン」はアルバムのラストを飾るにふさわしいセイクレッド・ソングです。フラット&スクラッグスのアルバム『ソング・トゥ・チェリッシュ』でのレスターの名唱でも知られるように、ブルーグラスの世界では数多くのグループに歌われてきました。しかしここではダフィーの非南部的なリード・ヴォーカルが特徴的です。リードがスターリングに入れ替わり4部コーラスへと続きます。洗練された外連味のない正統派ブルーグラス・セイクレッドの真髄を思う存分に聴かせてくれています。

多様な音楽ソースで溢れたアルバム『アクト3』は197312月にリリースされました(Rebel SLP-1528)。日本盤は翌197410月にキング・レコードから発売されています(Seven Seas SR 834)。


by scoop8739 | 2018-03-16 08:22 | セルダム・シーン
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