262 至高のサウンド(その16)

アルバム『アクト3』曲解説(A面)

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A面1曲目「チム・チム・チェリー」はディズニーのミュージカル映画『メリー・ポピンズ』(実写とアニメの合成版)の主題歌としてリチャードとロバートのシャーマン兄弟によって作られた曲です。もの悲しげなギターの独奏はダフィーです。バックでかすかに聴こえるドブロの音色が哀愁感を増しています。アルバムの幕開きにふさわしくしっとりとした演出です。

前曲からは打って変わって気合いの入ったアカペラ・コーラスで始まる2曲目「ジョージアのバラ」は、このアルバムでは珍しく“もっともブルーグラスらしい曲”です。この曲はご存知の通りビル・モンローの十八番曲で、通常「Rose Of Old Kentucky」と題され歌われています。もちろん選曲はモンロー信者のダフィーでしょう。コーラスから始まったり、途中で転調したりと、オリジナルからは想像できないほどいろんなアレンジとテクニックを駆使して聴かせてくれます。

3曲目「アナザー・ロンサム・デイ」はカントリー・ジェントルメンを脱退したエディ・アドコックが作ったバンドの女性シンガー、ウェンディ・サッシャー(Wendy Thatcher)の作になる美しい曲です。近年ではエミルー・ハリスの名唱でも有名となりましたが、この曲をいち早く取り上げた選曲眼のするどさに驚くばかりです。フォーク調のオリジナルに比べ、さらに磨きをかけたアレンジはセルダム・シーンの真骨頂といったところです。コーラスが綺麗にハモって気持ちいいですネ。リード・ギターはエルドリッヂが担当しています。

4曲目「ウィリー・ボーイ」は、後にセルダム・シーンのヴォーカリストとなるフィル・ローゼンタールの自作曲です。この曲は先住民族として生まれたがために起こった悲劇を題材にして作られています。軽快なバンジョーのイントロに始まり、スターリングの渋いヴォーカルで滔々と歌われます。コーラスのハイ・バリトン・ヴォーカルがダフィー、テナーはグレイが担当しています。間奏のドブロがいい味を出しています。余談になりますが、1970年に公開されたアメリカ映画『明日に向かって走れ』(ロバート・レッドフォード主演)で、この「ウィリー・ボーイ」の悲劇が描かれています。

5曲目「過ぎ去りし恋」はオゥルドリッヂのムード溢れるドブロ演奏がたっぷりと聴ける曲です。オリジナルはボブ・ウィルスと彼の兄弟によって書かれたウエスタン・スゥイングの名曲でした。ドブロの後ろでマンドリンが聴き取れないくらい静かに奏でられています。リード・ギターはエルドリッヂです。これぞまさに大人による大人のための名演奏だと言えるでしょう。

とかなんとか書いていたら、次の6曲目「ライダー」ではいきなりベースのイントロからバンジョー、フィドルのソロへと続き、コーラスからスターリングの歌で曲が始まります。この演奏からはブルーグラスというよりジャズに近いものを感じます。なるほど元は黒人の“自由への脱出”を願う歌だったと言われています。ジェリー・ガルシア率いるグレイトフル・デッドが1970年に発表したアルバム『ヴィンテージ・デッド』に収録されていたこの曲を誰よりもいち早くブルーグラスにアレンジしたのではないでしょうか。それにしてもなんとも迫力ある演奏です。エルドリッヂがバリトン・ヴォーカルを担当しています。曲を邪魔しない程度に鳴っているセンスいいフィドルはニュー・サウスに加入前のリッキー・スキャッグスでした。


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by scoop8739 | 2018-03-13 17:12 | セルダム・シーン
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