255 至高のサウンド(その9)

アルバム『アクト1』曲解説(B面)

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B面1曲「ニュー・オーリンズの街」は日本盤発売の折に付けられた邦題で、曲の内容からはどうもかけ離れています。本来「シティ・オブ・ニューオーリンズ」というのは、アメリカのイリノイ・セントラル鉄道(Illinois Central Railroad)が1947年に運行を開始した昼行の旅客列車の愛称のことです。この列車の路線はイリノイ州シカゴからメンフィスを経て、ルイジアナ州ニューオーリンズに至るもので、歌に出てくるイリノイ州のカンカキーは、シカゴから二つ目の駅になります。歌ではテネシー州メンフィスで車両の乗り換えで、乗り換える前にプルマン(プルマン式の開放式A寝台)で眠るとありますが、作者スティーブ・グッドマンの思い違いか、この列車は昼間しか走っておらず、路線全体を「シティー・オブ・ニューオリンズ」で表したかったのかもしれません。この路線がたくさんのアメリカ人の足となり、その夢や人生を乗せて南北を結んでいることは確かです。この歌のコーラス部の「Good Morning America How Are You?…」って最高に素敵じゃないですか? 軽やかなドブロのイントロに続き、スターリングの弾むような歌唱に感動さえ覚えます。

2曲目「バディー・アンド・ソウル」はビル・モンローがレパートリーとしている名曲です。作者のヴァージニア・メイ・スタウファーはモンローに「ロード・オブ・ライフ」(Road Of Life)「ショウ・ミー」(Show Me)、「クリスマス・タイム」(That’s Christmas Time to Me)などの曲を書いています。この曲のアレンジも所謂“ブルーグラス風”ではありません。しっとり優しく歌うスターリングに続いて力強くハモるダフィーとのデュエットがとても素晴らしく、間奏のオゥルドリッヂのドブロにも泣かされます。まさに口当たりのよい大吟醸酒のような仕上がりです。ちなみに同時期に録音された「ニューグラス・リヴァイバル」盤の同曲と聴き比べてみるのも楽しいものです。

3曲目「夏の日は過ぎて」はエマーソン&ウォルドロンの2枚目のアルバムでも取り上げられましたが、さすがにシーンのアレンジには敵いません。マンドリンのイントロから切なさが醸し出され、ダフィーとスターリングのデュエットで盛り上がりを見せ、間奏のドブロで一段と艶と深みが増します。

エルドリッヂによるギターのイントロから始まる4曲目の「500マイル」は、ダフィーがカントリー・ジェントルメン時代からレパートリーにしているお得意のナンバーです。しかしあの頃のものと違ってデリケートでグっとまろやかになっています。前者が醸造酒ならば後者は蒸留酒といった具合で、まるで極上のブランデーのような感じに仕上がっています。やはり歌のバックで流れているドブロのせいでしょうか? エンディングのマンドリンで曲を締めくくっているようです。

つづいて5曲目の「キャノン・ボール」はA.P.カーター作、カーター・ファミリーの歌唱でお馴染みの曲です。これをシーンはドブロをフィーチャーした軽快なインスト曲として演奏しています。メロディアスで耳に心地よいオゥルドリッジのドブロ・プレイに、エルドリッヂのバンジョーがクロマティックなフレーズで応えます。

そして最後の「のらくら暮らし」は、モンキーズの4枚目のアルバム『スターコレクター』(Pisces, Aquarius, Capricorn & Jones Ltd.)からのカントリー・ロック風のナンバーです。よくぞまァこんな曲を見つけたもんだと感心していたら、1967年にルイス&クラーク・エクスペディションに在籍していたマイケル・マーティン・マーフィーとオーウェンズ・キャッスルマンの作品で、彼らはモンキーズ結成以前のマイク・ネスミスと共に音楽活動をしていました。これを1969年に女性3人を含むバンド、ストーンマンズがカヴァーしています。きっとブルーグラス・シーンでも多く歌われていたのでしょう。余談になりますが、1971年当時に渡米していた我が国のバンド、ブルーグラス45ダフィーの勧めでこの曲をレコーディングしています(アルバム名『CaravanRebel Records SLP 1507)。

このようにアルバム『アクト1』は洗練された革新的なブルーグラス・アルバムとなりました。兎にも角にも初舞台の幕が開き、第1幕(=ACT1)のお披露目です。さらにこれ以降、第2幕、第3幕とセルダム・シーンの進化は続いていくのです。

なお、この『アクト1』に影響を受けたのがロニー・ピアース率いる「ブルーグラス・アライアンス」でした。翌1973年に『トール・グラス』(Tall Grass)というアルバムをリリースします。アルバムには「What Am I Doin' Hanging ‘Round ?」や「City Of New Orleans」、さらにウォルドロンの「Fox On The Run」までもが収録されています。


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by scoop8739 | 2018-02-19 08:31 | セルダム・シーン
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