ジャズとブルーグラスを同じ土俵で語るというのも変な話ですが、第2次世界大戦前後に花開いたモダン・ジャズと時同じくして生まれたブルーグラスは、片やアフロ・アメリカン、片やアイリッシュ系アメリカンという両極端の人種によって形作られているものの、その歴史的な進化過程はよく似ています。
1940年代は第2次世界大戦をはさみ、アメリカ社会は多いに揺れ動きました。それに伴ってスイング・ジャズの黄金時代が終焉を迎え、よりアグレッシヴな演奏を主体としたビバップ(バップと呼ぶこともあります)と呼ばれる新しい形態とコンセプトによる音楽が誕生します。 ジャズはスイング時代までは、基本的にダンス・ミュージックとしての役割に重きが置かれていました。それが複雑なフレーズやシンコペーションを伴うビバップになると、この音楽で踊ることが非常に難しくなり、観賞用の音楽としての要素が強まってきたのです。 1940年代初頭にニューヨークのハーレムで生まれたビバップは、1950年代に入るといっそう熱狂的でブルース・フィーリングを強調したハード・バップへと進化を遂げます。また、ビバップの対極に位置する音楽として、最少の人数でビッグ・バンド・サウンドを演奏するという、マイルス・デイヴィス(トランペット)やレニー・トリスターノ(ピアノ)が提唱、実践したクール・ジャズも一般的なものとなり、そこから影響を受けたウェスト・コースト・ジャズは、イースト・コーストのハード・バップに相対するムーヴメントとして形成されてまいります。 とりあえず1950年代までのモダン・ジャズの歴史を書いたつもりですが、なんだかブルーグラスにも当てはまることが多くあると思いませんか? さてここ数ヶ月、ボクはジャズの旧譜、つまりジャズが最も輝いていた1950年代に録音されたブルーノートの1500番台を中心にたくさんのジャズを聴いています。ブルーノートの1500番台というと、時期はちょうどビバップからハード・バップへと移行している頃のものです。 ブルーノートの1500番台はマイルス・デイヴィスから始まります。その当時のマイルスはドラッグの渦中にありましたが、この1501番と1502番の2枚に分けて録音された演奏に耳を傾けると、さすがに「帝王マイルス」です。たとえドラッグの海に溺れていようと決して演奏に妥協はありません。 妥協をしないことで有名なマイルス・デイヴィスにこんな逸話があります。それは1954年12月24日に、ピアノのセロニアス・モンクを含むクインテットを率いてプレスティッジ・レーベルで行ったレコーディングのことです。このクリスマス・イヴに行われたセッションで収録された演奏は、のちに「バグス・グルーヴ」(BAGS GROOVE)と「マイルス・デイヴィス&ザ・モダン・ジャズ・ジャイアンツ」という2枚のアルバムに残されています。 中でも2テイクが録音された「ザ・マン・アイ・ラヴ」という曲は、俗に「喧嘩セッション」と呼ばれているもので、今日までのジャズ史を飾るエピソードのひとつとして知られる演奏です。このエピソードとは次のようなものでした。 マイルス・デイヴィスはこの曲の吹き込みにあたって、モンクに自分がソロをとっている時にバックでピアノを弾かないように言ったというのです。プライドの高いモンクはそれに腹を立て、マイルスはソロを終えても演奏しようとしませんでした。実際にレコーディングでは、そんなモンクにマイルスがトランペットで、今度はお前が弾くのだと促す様子まで収録されています。マイルスとモンクの一触即発的な緊張感が、この時の演奏を一層スリリングなものにしたというのが伝えられているエピソードです。 さて話をブルーグラスに転じますと、ジャズのマイルス・デイヴィスにあたる人がビル・モンロウではなかったろうかと思われます。そんな彼に「喧嘩セッション」のようなエピソードがあったのでしょうか? 以前NINOさんのブログ(http://bgrassjp.exblog.jp/)で、ビル・モンロウとケニー・ベイカーの逸話がありましたが、ブルーグラス60年の歴史の中にも、もっともっとおもしろいエピソードがたくさんあるのかもしれませんね。 人気blogランキングへ
by scoop8739
| 2005-06-26 15:27
| ブレイク・タイム
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