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49 クリスマス・アルバムの傑作

ロック、ポップスの分野で活躍するアーティストが、自分の音楽特性や主張を全面に押し出したアルバムを作り始めたのはビートルズが活躍する60年代後半からです。それ以前はレコード会社が主導権を握り、たとえ人気アーティストでも例外なくアルバム作りに関してはコマーシャル性がすべてに優先され、レギュラー、ベスト、ライヴ、それにクリスマスがその主な内訳になっていました。言い替えるなら50〜60年代におけるアルバムのこの制作パターンは人気スターの証明でもあった訳です。

現代ではアーティストの個性や主張がなんの制約、障害もなくアルバムに反映され、レギュラー作品主体で内容もバラエティ豊かです。このためベスト盤やクリスマス盤などの企画、編集作品が50〜60年代のようにファンに新鮮な響きを与えなくなりました。また時代とともにファンの音楽を聴くスタイルも変化したため、季節にあった音楽を楽しむという傾向もなくなりました。

この影響をモロに受けたのがクリスマス・レコードです。年に一度とは言っても50〜60年代はまだクリスマス・レコードが全盛で、毎年その季節になると新旧さまざまなアーティストの作品が発表され人気を集めていました。しかし、70年以降はクリスマスだからあえて、という傾向は、アーティスト、ファンともに薄れ、ハンで押したようなレコード制作は影をひそめてしまいました。とは言えクリスマス作品がなくなった訳ではありません。アルバムに変わってシングルだけのオリジナル・クリスマス作品が発表されています。

近年はクリスマス・ソングがヒット・チャートに登場することは珍しく、大きなレコード・セールスを残したケースもあまり見当たりません。ビング・クロスビーの歌った「ホワイト・クリスマス」が恒例のようにヒットしていた頃と現代では、時代や流行のスピード、そしてファンの音楽に対する姿勢や好みも大きく異なっています。しかしながら、こうした傾向はあるにせよ昔ながらのオーソドックスなクリスマス・ソングがすたれるわけではありません。従って現在のクリスマス・ソングは人気やヒットに関係なく、各人の好みにあった自由な選択、楽しみ方が一番だと思われます。

a0038167_14135565.jpgさて話をブルーグラスの世界に移しますと、敬虔なクリスチャンの多い南部アメリカにおいて、クリスマスは特別の日のひとつとして感謝祭と同じように盛大にお祝いされます。もちろんクリスマス・ソングを聴いたり、歌ったりというのは当然のことです。そういった意味ではグルーグラス音楽によるクリスマス・アルバムはよく聴かれるアイテムでもあるわけです。そんな中、遅ればせではありますが、業界の慣習通りレベル・レコードが1980年代はじめに「CHRISTMAS TIME BACK HOME」というLPをリリースします(現在CD化されています)。これはレベル・レコードお得意の手法ながら、さまざまなローカル・グループのシングル盤を編集したもので、カントリー・ジェントルメンを始め、ビル・クリフトン、ラリー・スパークスらが歌うクリスマス・ソングが収められています。

また、単独のものとしてはデヴィッド・グリスマン・クィンテットによるインスト集「David Grisman's Acoustic Christmas」(ROUNDER)、ラリー・スパークスの「Christmas in the hills」(REBEL)、ラルフ・スタンレーの「Christmas time with Ralph Stanley」(FREELAND)などのアルバムがリリースされています。

わが国でもシュガー・ヒル・レコードのアーティストで構成された「クリスマス・ララバイ」(キング)というアルバムがリリースされています。これには珍しいセルダム・シーンのクリスマス・ソング「きよしこの夜」も収録されていてファン必聴のアルバムとなっています(残念ながら廃盤となってしまいました)。また2000年代になるといろいろ面白い編集盤がリリースされます。リッキー・スキャッグス・バンドのメンバーを中心にしたクリスマス・インスト集「CHRISTMAS GRASS」(AUDIUM)や、デル・マッカリー・バンドを中心にドック・ワトソン、マック・ワイズマン、ティム・オブライエン、オズボーン・ブラザーズという豪華メンバーが集った「CHRISTMAS ON THE MOUNTAIN」(UNIVERSAL)といったものがそうです。

ところで、またまた新しく傑作アルバムがリリースされましたのでご紹介いたします。このアルバムは新旧のアーティストが歌うクリスマス・ソングをレーベルの垣根を越えて編集されています。

Essential Bluegrass Christmas Collection:
a0038167_14142747.jpg Christmas Time's a Comin' (Time Life)
1. Christmas Time's A-Comin'
/ Bill Monroe
2. Christmas Is Near
/ The Stanley Brothers
3. Christmas Time Back Home
/ The Country Gentlemen
4. Bluegrass Christmas
/ Del McCoury Brothers
5. Beautiful Star Of Bethlehem
/ Emmylou Harris
6. Old-Fashioned Christmas
/ Jimmy Martin & The Sunny Mountain Boys
7. It's Christmas Time
/ Larry Sparks
8. Rudolph, The Red-Nosed Reindeer
/ Lynn Morris
9. Merry Christmas From Our House To Yours
/ Doyle Lawson & Quicksilver
10. That's Christmas Time To Me
/ Bill Monroe & His Blue Grass Boys
11. I'm Goin Home, It's Christmas Time
/ Ralph Stanley
12. Call Collect On Christmas
/ Del McCoury
13. Jingle Bells
/ Reno & Smiley
14. I Feel The Christmas Spirit
/ The Isaacs
15. The Friendly Beast
/ The Johnson Mountain Boys
16. Away In A Manger
/ Larry Stephenson
17. White Christmas
/ Larry Sparks
18. The First Noel/It Came Upon A Midnight Clear/Joy To The World
/ Doyle Lawson & Quicksilver

さぁいかがでしょうか? この顔ぶれ、このクリスマス・ソングの数々、そんな訳でこのアルバムが悪かろうはずありません。もうすぐシーズンが到来します。あなたも聖夜をブルーグラス音楽でお楽しみ下さい。
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-10-09 14:14 | 名盤紹介

48 ニュー・トラディッショナルの旋風

a0038167_18391851.jpg流行の揺り戻し作用はどんなことにも起こるものです。1970年代半ばまで続いたニューグラスにも少しかげりが見え始めました。ニューグラスで火がついたブルーグラス熱は、それまでブルーグラス音楽に無関心だった層を刺激し、新たなファンを作り出していったのですが、彼らはグルーグラス音楽を知れば知るほどその歴史に興味を持ち始めます。それは過去の名盤復刻という形でさらに加熱していきます。

先のデヴィッド・グリスマンの「ラウンダー・アルバム」のように、新しいバンドが隠れた古い名曲を発掘し新しいアレンジで演奏するスタイルがブームとなります。またプログレッシヴなグループでさえ、古いマテリアルを以前より多くレパートリーに加え始めました。こうした結果、1970年に蒔かれた「ニューグラス」の種は、意外なことに「ニュー・トラディッショナル」という形で実を結んだのでした。

1977年になると、J.D.クロウのニュー・サウスやグリスマン「ラウンダー・アルバム」で実力を遺憾なく発揮したリッキー・スキャッグスとジェリー・ダグラスが中心となって、「ブーン・クリーク」という名の新しいバンドを結成します。彼らはいくぶんプログレッシヴ寄りのバンドでしたが、トラッドの良さを失わないスタイルを打ち出します。

メンバーはリッキーとジェリーに加えて、リード・ボーカルとギターにウェズレー・ゴールディング、バンジョーとフィドルにテリー・ベイコム、エレキ・ベースにフレッド・ウーテン(のちにスティーブ・ブライアントに替わる)の5人からなり、全員少年の頃から一流のプロ・バンドで活躍していて、個々の持つ類い稀な楽器演奏能力にバンドとしてのアンサンブル、そして美しいコーラス・ワークなど特徴的な要素を多く持ち合わせていました。

彼らはビル・モンローやスタンレー・ブラザーズ、フラット&スクラッグスなどの曲に新しいアレンジを加え、新しいカルテットのコーラスとハイ・リード、エレキ・ベースの強い音での演奏や、それまでのブルーグラス・スタイルにウェスタン・スィングを取り入れるなど、彼らなりにトラディッショナルなブルーグラス音楽を新しい感覚で甦らせていきました。

One Way Track (Sugar Hill)
1. One Way Track
2. Head Over Heels
3. Little Community Church
4. Mississippi Queen
5. In the Pines
6. Can't You Hear Me Calling
7. No Mother or Dad
8. I'm Blue, I'm Lonesome
9. Daniel Prayed
10. Sally Goodin'
11. Paradise [Live]
12. Pathway of Teardrops [Live]
13. Walking in Jerusalem [Live]

彼らのデビュー・アルバムはビル・モンローやスタンレー・ブラザーズ、フラット&スクラッグスの曲などを中心として。確かにソリッドな部分を崩さず上手く仕上げられています。一方、彼らのオリジナルとなる1曲目「One Way Track」、4曲目「Mississippi Queen」は少しプログレッシヴな曲です。エレキ・ベースが強く前面に押し出されているにもかかわらず、決してニューグラスっぽくなく、みごとにブルーグラスとなっています。この辺りに彼らのセンスが顕著に現れています。

このCDにはオリジナルのSugar Hillのアナログ盤には入っていない3曲のボーナス・トラック(しかもライブ盤)が入っています。これだけでもかなりお得な気分ですが、すばらしいコーラス・ワークを楽しむとさらにお得感が増します。
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-10-05 18:38 | ブルーグラスの歴史

47 セッション・アルバムのヒット・メーカー

a0038167_9425295.jpgデヴィッド・グリスマンの創る「ドーグ・ミュージック」は、かつてグレート・アメリカン・ミュージック・バンドで試みたジャズやロックの即興演奏を用いたアコースティック・インストゥルメンタルによるニュー・ミュージックを目指したものです。しかしブルーグラス・ファンに理解されるのにはまだまだ十分な時間が必要でした。

そこでグリスマンはグループのメンバーを中心とし、さらに当代一のミュージシャンを加えてブルーグラス音楽とドーグ・ミュージックの橋渡しとなるようなアルバムの制作を企画します。そのアルバムは、グリスマン自身が長年に亘って暖めていた「良質のブルーグラス・アルバムを作りたい」との思いを実現させたもので、それはブルーグラス・ファンが楽しめ、しかも日頃ファンが聴いたことのない曲ばかりで構成されたものでした。

そのために起用されたミュージシャンは、グリスマン好みの凄腕ばかりでした。まずバンジョーには先の「ミュールスキナー」で共演したビル・キースを、そしてフィドルには「オールド・イン・ザ・ウェイ」で当代一のテクニックを聴かせてくれたヴァッサー・クレメンツ、ギターとボーカルはJ.D.クロウのニュー・サウスを離れグリスマン・クィンテットに参加してきた才人トニー・ライス、ドブロは同じくニュー・サウスをトニーと同時期に辞めたジェリー・ダグラス、そしてベースにはグレイト・アメリカン・ミュージック・バンド以来グリスマンと行動を共にしているトッド・フィリップスというメンバーが集まります。

さらにこれらのミュージシャンを補強するかのように、テナー・ボーカルとセカンド・フィドルにはジェリー・ダグラスと行動を共にするリッキー・スキャッグス、きれいに整理されたマンドリンを弾かせたら右に出る者がいないと言われるバック・ホワイトをセカンド・マンドリンに、そしてミステリアス・バンジョーことセカンド・バンジョーには、ビル・キースを敬愛してやまないカントリー・クッキングの名手トニー・トリシュカと、それはそれはよくもここまで揃えたものだとファンを唸らせる顔ぶれでした。

何はともあれ、グリスマンの考える最高のミュージシャンで良質のブルーグラスを聴かせるというコンセプトに従って、このアルバムを聴いてみようではありませんか。

David Grisman Rounder Compact Disc(Rounder)
1. Hello
2. Sawin' on the Strings
3. Waiting on Vassar
4. I Ain't Broke (But I'm Badly Bent)
5. Opus 38
6. Hold to God's Unchanging Hand
7. Boston Boy
8. Cheyenne
9. 'til the End of the World Rolls 'Round
10. You'll Find Her Name Written There
11. On and On
12. Bob's Brewin'
13. So Long

まずは1曲目「ハロー」はイントロにあたる短い曲です。ジミー・マーチンとサニー・マウンテン・ボーイズが挨拶代わりに歌っていたもので、ジミーのバンドはこの曲に続いて「トレイン45」を演奏していましたが、グリスマンはドン・リーノウとレッド・スマイリーの「ソーイング・オン・ザ・ストリングス」という隠れた大傑作を持ってきて選曲の冴えを見せてくれます。

続いての「ウェイティング・オン・ヴァッサー」はヴァッサーのことを書いたグリスマンの作品です。ドーグ・ミュージックにあまり馴染みのないジェリーにとっては、難解なコード進行でセッション経験の浅かった当時はずいぶんと手こずったようです。

4曲目はこのアルバムのハイライトであり、普段あまり聴かれないような曲で構成された中でも最たるものです。実はこの曲、グリスマン所有のビル・モンローのライヴ・テープに収められていたものだそうですが、リッキーの大真面目な熱唱が聴かれます。さてさて続いて現れたのはグリスマン一連のマンドリン組曲の一つ、イギリスの雰囲気を漂わせたオールド・タイム・フィドル・チューンにオリエンタル・ムードが混ざったようなミステリアスな曲です。

6曲目は1曲目同様、ジミー・マーチンがよく歌っていたものだそうです。7、8、10、11曲目はグリスマンの敬愛するビル・モンローの作品です。わりとポピュラーなものやあまり知られていないものなどうまい具合に選曲されています。9曲目はフラット&スクラッグスの1950年代中期の作品です。グリスマンのリードにリッキーのテナー、そしてトニーのバリトンが聴かれます。最後の曲「ソー・ロング」は1曲目のイントロを真似て短いコーラスで締めくくられています。この曲も実はジミー・マーチンがショーのエンディング曲としていたものなのだそうです。

この時期、「ミュールスキナー」や「オールド・イン・ザ・ウェイ」の成功を受け、相次いでセッション・アルバムがリリースされ始めます。まさに新旧入り乱れてのセッション・フィーバーとなった訳ですが、常にその中心となったのがこのアルバムの仕掛人デヴィッド・グリスマンに他ならなかったのでした。以来、ブルーグラスにはセッションがつきものとなってきますが、ブルーグラス・ファンの期待と興奮を満たすものはそんなに多くはありませんでした。それでもグリスマンが手掛けるものはこれ以降もレベルの高いものばかり、常にファンの欲求を満たし心ときめかせ続けたのでした。それはグリスマン自身が一ファンとしてブルーグラス音楽を愛し、またアルバム作りに全力投球したからなのでしょう。
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-10-01 09:41 | ブルーグラスの歴史