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11 ブルーグラス音楽の発展に貢献したフラット&スクラッグス

a0038167_14575442.jpgレスター・フラットとアール・スクラッグスほどブルーグラス音楽の発展に貢献したグループは他に例をみません。とくにアールの革新的なバンジョー奏法によるブルーグラス音楽への貢献は、その創成期から約60年に亘ってブルーグラスがよりポピュラー化するための手段において、ひとつの最も重要な要素となっていることは誰も否定することは出来ません。

全米的なヒットとなった数曲のブルーグラス音楽の内、「じゃじゃ億万長者」と「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」の2曲は、確実にアールの業績と断言しても過言ではありません。1960年代後期ブルーグラス音楽の上昇気流の中にあって、この2曲はファンにとって忘れることのできないものとなっています。このように、彼らはブルーグラス音楽を決して聴かなかったであろう場所にブルーグラス音楽を定着させ、同時にブルーグラス・スタイルのポピュラー化に果たした役割は筆舌に尽くしがたいものがあります。

レスターとアールは、ビル・モンローともに1945年から47年の2年間に28曲の録音を行い、その間に数多くの旅興行を重ね、モンロー・ミュージックを根底から支える原動力として活動してまいりました。こうしてビルの成功とブルーグラス音楽の普及に尽力を惜しまなかった2人は、連日連夜のハード・スケジュールに疲れ果てバンドを去り、それぞれの故郷へと帰ります。

ところが1948年夏、2人は自分達のバンド、フォギー・マウンテン・ボーイズを結成し、マーキュリー・レコードと契約を交わし再びミュージック・シーンに戻ってきます。そして51年までの3年間に計28曲を録音しますが、そのどれもが今日でもブルーグラス音楽のスタンダード曲として、あらゆるアーティストによって演奏され続けています。

1曲目「また逢う日まで」、3曲目「キャロライナの山小屋」、22曲目「恋人の腕に抱かれて」はアマチュア・バンドにとって入門曲であり、10曲目の「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」は不朽の名曲として誰もが一度は演奏するインストゥルメンタルの代表曲です。

The Complete Mercury Recordings (Mercury)
1. We'll Meet Again Sweetheart
2. God Loves His Children
3. My Cabin in Caroline
4. I'm Going to Make Heaven My Home
5. Baby Blue Eyes
6.Down the Roads
7.Bouquet in Heaven
8.Why Don't You Tell Me So
9.I'll Never Shed Another Tear
10.Foggy Mountain Breakdown
11.No Mother or Dad
12.Is It Too Late Now?
13.My Little Girl in Tennessee
14.I'll Be Going to Heaven Sometime
15.I'll Never Love Another
16.So Happy I'll Be
17.Doin' My Time
18.Pike County Breakdown
19.Preachin', Prayin', Singin'
20.Cora Is Gone
21.Pain in My Heart
22.Roll in My Sweet Baby's Arms
23.Back to the Cross
24.Salty Dog Blues
25.Will the Roses Bloom (Where She Lies Sleeping)
26.Take Me in a Lifeboat
27.Farewell Blues
28.I'll Just Pretend
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-30 14:59 | ブルーグラスの歴史

10 ビル・モンローとブルーグラス・プラス・サムシング

a0038167_1131931.jpgブルーグラス音楽とは、1945年頃にビル・モンローが創り上げた音楽のことです。ビルが兄チャーリーとともに活動したモンロー・ブラザーズ時代から、彼のあのドライヴのかかったマンドリンとはりつめたテナー・ボーカルは当時活躍していた数多くのデュエット・チームの中でも群を抜いてユニークな存在でした。とくにあのスウィンギーでジャジーなアドリブは、今聴いても古臭さを感じさせないほど素晴らしいものです。このアドリブとドライヴ感こそが、そのままブルーグラス音楽の生命となった重要な要因だといえます。

ブルー・グラス・ボーイズを結成してから数年間の試行錯誤があり、そのスタイルさえ定まらなかったのですが、1945年に集められたメンバーによって彼の理想とするスタイルが確立されます。ビルのジャジーなマンドリン、アールの華麗なバンジョー、チャビーのスムーズなフィドルという強力なフロント・ライン。そしてブルーグラス・ギターの基礎を作ったといわれるレスターのGランを効果的に用いたリズム・ギター、セドリックのステディなベース。これらによってブルーグラス音楽の歴史が始まりました。そして1950年代始めにラジオ局のD.J.たちが、彼らブルー・グラス・ボーイズの演奏する今までのカテゴリーに収まらない音楽を称して、“ブルーグラス・スタイル”と呼んだことから、「ブルーグラス音楽」というジャンルが一般化したといわれています。

この60年ほどの歴史しかないブルーグラス音楽は、今日までに常に変動してきたことは前述しましたが、とくに60年代に入ってからは、それ以前の20年余りの間とは比べようのないくらい激しい変化に見舞われます。フォーク・リバイバルの動きとともに都会へと進出を果たし、その都会に育った若いミュージシャンたちの手によって、60年代後半以降のブルーグラスのモダン化は圧倒的な勢いで進行しました。70年代に突入すると、いわゆるニュー・グラスという形で最も端的に現れたのでした。

しかしビル・モンロー自身、そしてブルー・グラス・ボーイズの音楽は、そうした様々な外的あるいは内的な変化に流されることなく、常に自らの求める道を歩み続け、変化をたくみに自らの音楽に組み入れることによってブルーグラスのメイン・ストリームを守ってきました。時にはA&Rマンの圧力を受けてやむなく時流に押し流されそうになったこともありましたが、いつの間にかそれをも跳ね返し、自ら築き上げたブルーグラス・スタイルを守り通してきたのです。

彼は60余年にもおよぶ長いキャリアの中で、常に新しいサムシングを取り入れる努力を続け、時代の先端を行くブルーグラス・スタイルを創り続けてきたことは賞賛に値するものです。さらにビルは、永きに亘って“ファーザー・オブ・ブルーグラス”、“ミスター・ブルーグラス”と呼ばれ、常にブルーグラス界のトップの座に君臨してまいりました。この間に彼は多くのミュージシャンを育て、彼のもとから育った若いミュージシャンたち、たとえばビル・キースやリチャード・グリーン、ピーター・ローワンといったプレイヤーは、彼の教えを生かしたブルーグラス・プラス・サムシングの音楽にチャレンジし、またビルをアイドルとしてきたジョン・ダフィーやデヴィッド・グリスマン、サム・ブッシュらも、ビル・モンロー・トラディションをふまえた新しい独特のスタイルを生み出してきました。

彼が常に新しいサムシングを求め続けたということは、生前残してきた多くのレコーディングによって如実に示されており、それらのほとんどは現在でも多くのCDにまとめられています。今回はそんなビル・モンローの永いキャリアの中で創り出された作品を、レーベルの枠を越えて俯瞰的にとらえた4枚組のボックス・セットでご紹介します。

Music of Bill Monroe from 1936-1994 (Uni/MCA)
ディスク: 1
1. My Long Journey Home
2. What Would You Give In Exchange For Your Soul
3. Muleskinner Blues
4. Cryin' Holy Unto My Lord
5. Back Up And Push
6. Goodbye Old Pal
7. Heavy Traffic Ahead
8. Wicked Path Of Sin
9. It's Mighty Dark To Travel
10. Bluegrass Breakdown
11. Can't You Hear Me Callin'
12. My Little Georgia Rose
13. I'm On My Way To The Old Home
14. I'm Blue, I'm Lonesome
15. Uncle Pen
16. Lord Protect My Soul
17. Raw Hide
18. Brakeman's Blues
19. Sugar Coated Love
20. Christmas Time's A Coming
21. The First Whippoorwill
22. In The Pines
23. Footprints In The Snow
24. Walking In Jerusalem
ディスク: 2
1. Memories Of Mother & Dad
2. The Little Girl & The Dreadful Snake
3. Y'all Come
4. Sitting Alone In The Moonlight
5. On And On
6. White House Blues
7. Happy On My Way
8. A Voice From On High
9. Close By
10. Put My Little Shoes Away
11. Wheel Hoss
12. Cheyenne
13. You'll Find Her Name Written There
14. Roanoke
15. Blue Moon Of Kentucky
16. The Girl In The Blue Velvet Band
17. Used To Be
18. A Good Woman's Love
19. Cry, Cry Darlin'
20. I'm Sittin' On Top Of The World
21. I'll Meet You In The Morning
22. Scotland
23. Molly And Tenbrooks
24. John Henry
ディスク: 3
1. Big Mon
2. Dark As The Night, Blue As The Day
3. Sold Down The River
4. Little Joe
5. Lonesome Road Blues
6. I'm Going Back To Old Kentucky
7. Toy Heart
8. Nine Pound Hammer
9. Big Sandy River
10. Darling Corey
11. Salt Creek
12. Sailor's Hornpipe
13. Roll On Buddy, Roll On
14. Bill's Dream
15. Never Again
16. Dusty Miller
17. Midnight On The Stormy Deep
18. Soldier's Joy
19. Blue Night
20. Sally Goodin
21. Kentucky Mandolin
22. Walls Of Time
23. I Haven't Seen Mary In Years
24. The Dead March
25. With Body And Soul
26. Walk Softly On My Heart
27. Goin' Up Caney
ディスク: 4
1. Kentucky Waltz
2. Get Up John
3. Lonesome Moonlight Waltz
4. Rocky Road Blues
5. Jenny Lynn
6. My Old Kentucky And You
7. You Won't Be Satisfied That Way
8. Jerusalem Ridge
9. Ashland Breakdown
10. Come Hither To Go Yonder
11. My Last Days On Earth
12. My Sweet Blue-Eyed Darlin'
13. Travelin' This Lonesome Road
14. The Old Brown County Barn
15. Stay Away From Me
16. The Long Bow
17. The Old Cross Roads
18. Southern Flavor
19. Take Courage Un' Tomorrow
20. Pike County Breakdown
21. I'm Working On A Building
22. You're Drifting Away
23. Boston Boy
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-29 10:40 | ブルーグラスの歴史

09 ビル・モンローとブルーグラス音楽の誕生

a0038167_13124199.jpg「ブルーグラスの父」と称されるビル・モンローは、それまで兄チャーリーと組んでいたモンロー・ブラザーズを解散し、一時期ストリング・バンドを結成していましたが、これはどうやら失敗に終わったようです。そして1939年にクレオ・デイヴィス(Cleo Davis/ヴォーカル、ギター)、アート・ウーテン(Art Wooten/フィドル)、ジム・ホルムス(Jim Holmes/ベース)らと結成したのがブルー・グラス・ボーイズでした(メンバーには他説あり)。このメンバーでオーディションに受かり、憧れの「グランド・オール・オープリー」に登場します。ここでビルは、1920年代に活躍したジミー・ロジャースという歌手が作って歌いヒットさせた「ミュール・スキナー・ブルース」という曲を、ギターを弾きながら歌っています。

バンドは何度かのメンバー交替の後、1945年にはレスター・フラット(ヴォーカル、ギター)、アール・スクラッグス(バンジョー)、チャビー・ワイズ(Chubby Wise/フィドル)、セドリック・レインウォーター(Cedric Rainwater/ベース)というメンバーに落ち着き、今日で言う「ブルーグラス・スタイル」で演奏をするようになりました。

ビル・モンローについては、この1945年前後がブルーグラス音楽の歴史上において最も大切な時期ですので、CDの解説をしながら話を進めてまいります。選んだCDは2枚組「ジ・エッセンシャル・ビル・モンロー」(Columbia/Legacy)というものです。

DISC1の1〜8は1945年2月13日の録音です。2曲目の「ケンタッキー・ワルツ」(Kentucky Waltz)は、ブルー・グラス・ボーイズにとって1946年最初のヒット曲として知られています。ここにはバンジョーが入ってなく、代わりにサリー・アン・フォレスター(女性)のアコーディオンの演奏が聴けます。同じく6曲目の「雪の上の足跡」(Footprints In The Snow)は、編成こそギター、マンドリン、フィドル、バンジョー、ベースの典型的なブルーグラス・スタイルなのですが、サウンド的にはいま一歩のように思えます。つまりブルーグラス・スタイルが確立される直前の録音と言うことになります。

そして歴史的な録音となるDISC1の9〜16は1946年9月16日に、17〜20が翌日の9月17日にと、この2日間での録音がブルーグラス誕生後初のものとなります。しかし各楽器間の相互作用はまだ今ほど込み入っていませんでした。

さらに同じメンバーで、DISC2の1〜8が1947年10月27日に、9〜16が10月28日に録音されました。このセッションは、前回に比べてみてもずいぶんとブルーグラス・スタイルが確立されているように思えます。

DISC1-12曲目の「トイ・ハート」(Toy Heart)、DISC2-1曲目の「懐かしいケンタッキーへ」(I'm Going Back To Old Kentucky)、同4曲目の「丘の上の小さな家」(Little Cabin Home On The Hill)、同14曲目の「モリーとテンブルックス」(Molly And Tenbrooks)では典型的なアップ・テンポのブルーグラスが聴かれます。

さらにDISC1-13曲目の「夏の日は過ぎて」(Summertime Is Past And Gone)ではトリオ・コーラスによるブルーグラス・ワルツが、そしてDISC2-8曲目の「オールド・クロス・ロード」(The Old Cross Road)ではスローな宗教歌のブルーグラス・バージョンが、また6曲目の「ブルー・グラス・ブレイクダウン」(Blue Grass Breakdown)では典型的なブルーグラス・インストゥルメンタルを聴くことができます。

この時期のブルー・グラス・ボーイズの魅力は、何といってもアールの独創的なバンジョー奏法に尽きます。スリー・フィンガー奏法を改良したもので、以降、ブルーグラス音楽のバンジョー奏法が確立されたと言われています。またそれだけでなくビルとレスターのデュエット・コーラス、そしてビルのマンドリン、チャビーのフィドルと、ブルーグラス音楽のソロ・スタイルの真髄が聴けることです。これらの要素によりブルーグラス音楽を強く特徴づけていくことになるのです。こうしてみると、この2回、計4日間のセッションこそ、まさにブルーグラス音楽が創り出される瞬間を収めた歴史的証言ということになります。

なお、DISC2の17〜20はレスター・フラットとアール・スクラッグスという二枚看板が抜けた直後の1949年10月22日の録音で、ヴォーカルとギターにマック・ワイズマン(Mac Wiseman)が入団し録音されたものです。残念ながらこの録音でのバンジョーは、ドン・リーノウ(Don Reno)ではなく、ルディ・ライル(Rudy Ryle)となっています。

ところで、ブルー・グラス・ボーイズは実にメンバー交替の激しいバンドで、1948年にはビルを除いてのメンバーが相次いでグループを離れ、独自にフラット、スクラッグス&ザ・フォギー・マウンテン・ボーイズを結成します。それ以来、夏期シーズンに行われるフェスティバルでは、毎年メンバーの誰かが新しく入れ替わっていたと伝えられています。のちに一家を成すドン・リーノウ(1949年ごろ)、ジミー・マーチン(Jimmy Martin/1950年〜1954年ごろ)、カーター・スタンレー(Carter Stanley/1951年ごろ)、ソニー・オズボーン(Sonny Osborne/1952年ごろ)、というプレイヤーたちも一時期ブルー・グラス・ボーイズに在籍し活躍していました。

The Essential Bill Monroe & His Blue Grass Boys(CLUMBIA/LEGACY)
DISC 1
1. Rocky Road Blues
2. Kentucky Waltz
3. True Life Blues
4. Nobody Loves Me
5. Goodbye Old Pal
6. Footprints in the Snow
7. Blue Grass Special
8. Come Back to Me in My Dreams
9. Heavy Traffic Ahead
10. Why Did You Wander
11. Blue Moon of Kentucky
12. Toy Heart
13. Summertime Is Past and Gone
14. Mansions for Me
15. Mother's Only Sleeping
16. Blue Yodel No. 4
17. Will You Be Loving Another Man?
18. How Will I Explain About You?
19. Shining Path
20. Wicked Path of Sin
DISC 2
1. I'm Going Back to Old Kentucky
2. It's Mighty Dark to Travel
3. I Hear a Sweet Voice Calling
4. Little Cabin Home on the Hill
5. My Rose of Old Kentucky
6. Bluegrass Breakdown
7. Sweetheart You Done Me Wrong
8. Old Cross Road
9. That Home Above
10. Remember the Cross
11. Little Community Church
12. Along About Daybreak
13. When You Are Lonely
14. Molly and Tenbrooks [The Racehorse Song]
15. Shine Hallelujah, Shine
16. I'm Travelin' on and On
17. Can't You Hear Me Callin'
18. Travelin' This Lonesome Road
19. Blue Grass Stomp
20. Girl in the Blue Velvet Band
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-28 13:14 | ブルーグラスの歴史

08 まず、どのプレイヤーから聴けばいいのか?

ここまで読んで下さってお気づきのように、ブルーグラス音楽の近況やポップス・アレンジされたものの数々をご紹介してまいりました。しかしこれに飽き足らず、ブルーグラス音楽をもっと詳しく知りたいと思われている方、さらには、とりあえず「まずは、どのプレイヤー、どのグループから聴けばいいのか」と切望されておられる方に、これからは簡単ながらプレイヤーの紹介をしてみたいと思います。ブルーグラス音楽に限らず、どのプレイヤーから聴き始めるかで、そのジャンルを知るのにはずいぶんと印象が違ってくるものです。

古い話で申し訳ありませんが、ぼくがブルーグラスというものを知ったのは大学生の時です。ふつうこの手の音楽に初めて出会うのは、ライヴなんかで実際に演奏しているのを見かけたという場合が多いのですが、ぼくの場合はたまたま点けていたFMラジオから流れてきた番組を聴いたのがファースト・コンタクトでした。とっさにエア・チェックしてもう一度ゆっくりと聴き直してみると、不思議といい感じがするではありませんか。つまり自分にあった音楽であったということですね。その時、カセット・テープに収められていたのがビル・モンローの「雪の上の足跡」(Footprint in the Snow)、フラット&スクラッグスの「恋人の腕に抱かれて」(Roll in My Sweet Baby’s Arms)、スタンレー・ブラザーズの「オールド・ラトラー」(Old Rattler)あたりの曲で、中にはグランパ・ジョーンズの「マウンテン・デュー」なんかも混じっていたようです。

毎日このカセットを聴いているうちに病嵩じて、ついにぼくは友人にこの音楽のことを知っているのか聞いて廻りました。ところが誰もそんな音楽なんて知らないと言うのです。当時、ぼくは東京の大学に通っていたのですが、その頃はブルーグラス研究会活動が盛んな時代でしたので都心の大学だったならきっとどこかで遭遇していたはずなのでしょうが、残念ながらぼくの通う大学は郊外にあり、しかもブルーグラス研究会などは存在しませんでした。ですから誰も知らないはずで、しばらくはカセット・テープ頼りの日々が続きます。

人に聞いても知らないと言うのであれば自分で調べるしかありません。しかしいくら調べようにもインターネットで情報収集するような手段のない時代ですからなかなか見つけようもありません。そこでぼくは、レコード店に行けば何か手がかりがつかめるのではないだろうかと思い、さっそく最寄りのレコード店に行ってみました。ところがどうして、店員さんが首をかしげる程ですから、この手のレコードなど置いているはずもありません。いよいよ都心まで出かけてのレコード探しが始まります。

ありました、さすがに都心のレコード屋さんです。しかしこの当時のレコード屋さんに置かれていたのは、せいぜい当時良く売れていたカントリー・ジェントルメンかフラット&スクラッグスくらいなものです。ぼくは財布の中身と相談しながら、初めて聞く名前のビル・クリフトンやらカントリー・ジェントルメンを敬遠して、とりあえずカセットでお馴染みとなっていたフラット&スクラッグスのLPを買って帰ることにしました。たしか2枚組のマーキュリー盤でしたね。

アパートに戻ると一気にこのLPを聴いてみました。カセットで聴き覚えた「恋人の腕に抱かれて」もあります。さらには映画で耳にしたことのある「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」もあります。これだけで2ヶ月は持ちました。しかし3ヶ月目を迎える頃にはさすがのフラット&スクラッグスでさえ、ぼくの欲求を満たしてはくれません。そうこうするうちにジャズ通の友人が輸入盤専門店でブルーグラスのLPを見つけたと教えてくれたのです。いよいよぼくの輸入盤専門店通いが始まります。こうなってしまうと底なし沼に足を踏み入れた仔鹿のようなものです。財布に余裕のある限り、とは言え学生の持つお金なんてたかが知れていますから、せいぜい月に2.3枚程度ですが、見つけるレコードは片っ端から買い集めていきました。時には仕送り前なのにまるっきりお金がなくなってしまうことさえも起こりますが、同病相憐れむの喩えもあるように、友人の暖かい援助を受けながら仕送りが届くまでの間を食いつないでまいりました。

話が脱線しましたが、僕の場合、最初に買ったLPがレスター・フラット&アール・スクラッグスという幸いな出会い、なけなしのお金で慎重な買い方をしたこと、さらには日本盤に付き物のライナー・ノーツを道標として間違ったブルーグラス道を歩まずに済みました。ブルーグラス音楽を末永く愉しんでいただくためには、自分に合うアーティスト、CDとの出会いが大切です。

さて、次回からは古今のブルーグラス・アーティストの、しかも現時点で入手可能なCDを紹介してまいります。定石ではありますが年代順に話を進め、同時にブルーグラスの歴史もわかるようにしてみました。この流れの中で少しでも気になるプレイヤーとその作品に出会いましたらブック・マークしておいて下さい。

どのプレイヤーを聴けばいいのか迷った時、名盤といわれるCDの購入を考える際に道標として利用していただければ筆者冥利に尽きます。ドン・リーノウとレッド・スマイリーの歌った「バイブルを道標に」(Using My Bible for the Road Map)という名曲があります。入門リスナーにとりまして、このHPが「ブルーグラス入門のバイブル」になれるといいのですが…。
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-27 14:03

07 ポップスへのアプローチ(2)

a0038167_1049848.jpg1960年代はブルーグラス音楽が大きく様変わりした時代です。フォーク・ムーブメントの影響で聴衆層が広がり、これに応えるように演奏内容がフォークソングを中心としたものに変わっていきました。レスター・フラットとアール・スクラッグスのようにモダン・フォークソング的なものへとスタイルを変えていくものや、オズボーン・ブラザースやジム&ジェシーのように楽器に電気を通してカントリー音楽に近づくものなど様々でした。

ワシントンD.C.出身のカントリー・ジェントルメンはブルーグラスに新しいジャンルを取り入れました。それは、レス・ポールとメリー・フォードの名曲「世界は日の出を待っている」をジャズ風にアレンジした曲「サン・ライズ」や、ポール・ホワイトマン楽団の「ウィスパリング」をアレンジした曲「心の痛手」などです。カントリー・ジェントルメンはまた、ビートルズの「イエスタデイ」や、サイモンとガーファンクルの「ミセス・ロビンソン」などのポップスもアレンジしてレコードに残しました。

そして60年代後半になると世の中はビートルズやローリング・ストーンズらを中心としたロックの時代に突入します。これに呼応するかのように新しいスタイルのブルーグラスが登場します。その代表となるグループがブルーグラス・アライアンスで、彼らが取り上げたのがボブ・ディランやゴードン・ライトフットの曲でした。アライアンスは「ニュー・グラス」という名のアルバムを残していますが、ここから「ニューグラス時代」が始まったのです。

このアライアンスは数年のうちにメンバー・チェンジを繰り返し次世代のニュー・ヒーローたちを輩出します。ギターの名手トニー・ライス、マンドリンとフィドルのサム・ブッシュらがそうでした。1970年代は彼らが中心となってニューグラスの花が開きます。サム・ブッシュの率いるニュー・グラス・リバイバルはジェリー・リー・ルイスの「火の玉ロック」で鮮烈なデビューを果たし、一方のトニー・ライスはバンジョーのJ.D.クロウのバンドに加わって、ファッツ・ドミノの「アイム・ウォーキン」を含むアルバムで活躍の場を見つけたのでした。

また、カントリー・ジェントルメンを脱退したマンドリンのジョン・ダフィーは、さらにプログレッシブ志向の強いグループ、セルダム・シーンを立ち上げます。彼らは、クリフ・ウォルドロンが進めていたコンテンポラリー・ロック(クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル)、ソウル(アル・ウィルソン)、カントリー(マール・ハガード)へのアプローチをより進化させることに成功します。

さらに、もう一つの流れが西海岸でも起こりました。カントリー・ロックのグループ、フライング・バリトウ・ブラザーズが、彼らのコンサートの中にブルーグラス・セグメントを組み込んでツアーを開始したのです。この時に生まれたユニットが、のちのカントリー・ガゼットと発展していきます。ブリトウズの解散後、彼らはユナイテッド・アーティスツと契約しアルバムをリリースします。これは古いカントリーやブルーグラスと新しいカントリー・ロックを結びつけたもので、LAカントリー・ロックの特徴であるダブル・トラックのハーモニーを入れた、西海岸サウンドらしい爽やかなコーラス・ワークが満喫できるポップ感覚溢れる素晴らしいアルバムとなっています。

こうして1960年代以降、さまざまな形でブルーグラス音楽はポップスとの接近を図ります。次に挙げるCDに収録されているのは、ブルーグラス・アレンジによるポップスの数々です。フォークありロックありカントリーありと、様々なジャンルの曲が独自のアプローチでブルーグラス音楽となっています。これも初心者には最適な一枚となることでしょう。

Bluegrass Goes to Town : Pop Songs Bluegrass Style(Rounder)
1. Friend of the Devil - Rice, Rice, Hillman & Pedersen
2. Hitchcock Railway - Claire Lynch
3. Bye Bye Love - Spectrum
4. Don't Think Twice, It's All Right - The Rice Brothers
5. Blue Bayou - The Cox Family
6. Can't Find My Way Home - Rob Ickes with Tim O'Brien
7. Heartbreak Hotel - The Doug Dillard Band
8. I Will - Tony Furtado with Alison Krauss
9. Bridge Over Troubled Water - The Whitstein Brothers
10. Jolene - Rhonda Vincent
11. Piece of My Heart - John Hartford
12. I'm Walkin' - J.D. Crowe & the New South
13. (Now and Then There's) A Fool Such as I - Tasty Licks
14. World Turning - Tony Trischka with Dudley Connell and Alison Krauss
15. What Goes On - Joe Val & the New England Bluegrass Boys
16. Only You (And You Alone) - IIIrd Tyme Out
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-25 10:50 | プロローグ

06 ポップスへのアプローチ(1)

a0038167_10182829.jpg映画「オー・ブラザー」のメガ・ヒットや、アリソン・クラウス、エミルー・ハリスらの活躍によって、ブルーグラス音楽は他ジャンルのファンからも再認識され始めていますが、まだまだこの土臭い香りのする音楽は一般的なヒットをもたらすことはありません。

1960年初頭に起きたフォーク・リバイバル・ブームによって、それまではアメリカ南東部アパラチアン山岳地方でのみ受け入れられていたブルーグラス音楽は一気に大都会に進出します。とくにニューポートで行われるフォーク・フェスティバルに代表されるように、東部の大学生を中心によく聴かれたようです。

ブルーグラス音楽がフォーク・フェスティバルにおけるスタンダードな音楽として重要な位置を占めるようになるにつれて、フォーク・ミュージックへの進出は一種の流行となり、彼らはカレッジ・フォーク・コンサートを活動の場として、ブルーグラス音楽としては異例の商業的成功をおさめるのでした。その中心となったのがレスター・フラットとアール・スクラッグスのフォギー・マウンテン・ボーイズや、スタンレー兄弟のクリンチ・マウンテン・ボーイズでした。

なかでも1960年代に入ってからのフラット&スクラッグスは、50年代に聴かせたハードなブルーグラス・スタイルのすべてを捨て去り、極めてモダン・フォークソング的な耳障りの良いバンドへとスタイルを変え、60年代の中頃にはブルーグラス・ファンからかけ離れた存在と化してしまいます。しかし、1962年の「じゃじゃ馬億万長者」(The Ballad Of Jed Clampett)のビッグ・ヒットは、彼らを狭いブルーグラス・マーケットから無限の広がりを持つフォークやポップスのマーケットへ進出させた決定打と言ってもよいでしょう。そしてこの時代の活躍が後の広い人脈を作る基礎になったのです。

その後、ワシントンD.C.のカントリー・ジェントルメン、グリーンブライア・ボーイズやニュー・ロストシティ・ランブラーズの活躍と、西海岸からディーラーズやケンタッキー・カーネルズの出現によってにわかにブルーグラス・シーンが活気づき始めます。

そんな中、東海岸に現れたチャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズという大学生バンドが、ビートルズの曲をカバーしたアルバム「ビートル・カントリー」をリリースします。ぼくのような「ビートルズ大好き」人間は、それがどんなものであろうと有無も言わさず買ってしまうのですが、これがまたなかなか素晴らしいアルバムだったのです。このLPが発売されたのが1966年。ビートルズ全盛期の便乗企画物と言えばそれまでですが、ブルーグラスにアレンジしたというので言えば、これが最初のものではないでしょうか。

1曲目の「I'VE JUST SEEN A FACE」は軽快な曲調がカントリーのアレンジに違和感なく馴染みます。3曲目の「I FEEL FINE」もなかなかいい感じです。でも、さすがに5曲目の「TICKET TO RIDE」はちょっとなぁ、というアレンジです。なんといってもハッピーなのが4曲目の「YELLOW SUBMARINE」でしょう。たとえ音頭になろうとカントリーにアレンジされようと、この曲の脳天気さは普遍的だと言えます。

CHARLES RIVER VALLEY BOYS / BEATLE COUNTRY
1. I've Just Seen A Face
2. Baby's In Black
3. I Feel Fine
4. Yellow Submarine
5. Ticket To Ride
6. And Your Bird Can Sing
7. What Goes On
8. Norwegian Wood
9. Paperback Writer
10. She's A Woman
11. I Saw Her Standing There
12. Help!
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-24 10:19 | プロローグ

05 女性ブルーグラッサー大活躍

a0038167_1343987.jpgブルーグラス音楽は、ビル・モンローを中心としてレスター・フラットやアール・スクラッグスらによって形付けられた1945年を元年とすると、まもなく生誕60年を迎えます。この間、艱難辛苦の時期やフォーク・リバイバルのブームなどを乗り越えて、今日のニュー・トラッドやアコースティック・カントリー、そして女性プレイヤーの大活躍により、1970年代に匹敵する賑わいとサウンドの多様化をみせています。

とくに女性プレイヤーは、古くからブルーグラスやその前身のサザン・マウンテン・フォーク・ミュージックでは、カーター・ファミリーなど多くが活躍していますが、女性ブルーグラッサーの台頭はバークレー周辺でのローリー・ルイスやキャシー・キャリックの活動、そして15歳のときにニューポート・フォーク・フェスティバルに出演し、18歳にしてグラミー賞にノミネートされたというアリソン・クラウスによって花開いたといえるでしょう。

このアリソン・クラウスの登場によって、それまでは男性プレイヤーが中心だったブルーグラスの世界が一気に広がりました。ドライブ感に少し見劣りが感じられるものの、繊細で華麗な楽器演奏、宗教歌などのカルテット・コーラスで聴くことのできる女性ならではの優雅なコーラス・ワークを堪能できます。

主な女性ブルーグラッサーとして、そのアリソン・クラウスに見いだされたエヴァリンとスーザンのコックス・ファミリーをはじめ、ロンダ・ヴィンセント、リン・モリス、キャシー・キャリック、デール・アン・ブラッドリー、アリソン・ブラウン、ケイト・マッケンジーなどが挙げられます。彼女たちはバンドを組んだり、個々に活動したりと、男性プレイヤーに負けない力強さを持ち、時にはその優雅さが魅力となり活躍しています。こうした女性の進出は一時的な流行から本格的なものへ、さらには確実な定着さえ感じさせる昨今です。

女性の台頭を語る時にもう一人、ブルーグラスとの相乗効果としてアコースティック・カントリーのエミルー・ハリスの人気と実力を忘れることができません。彼女は1947年、アラバマ州バーミングハムの生まれで、ジョーン・バエズやバック・オウエンスなどの影響を受けキャリアをスタートさせました。ワシントンに移住後、元バーズ、フライング・ブリトー・ブラザーズのグラム・パーソンズとの出会いを契機にフォーク、ブルーグラス・シーンで活躍を始め、1975年にリプリーズよりアルバム『緑の天使』でメジャー・デビューを果たします。その可憐で澄んだ歌声は各方面から大絶賛を浴びるようになり、1970年代には、『エリート・ホテル』(76年)、『ブルー・ケンタッキー・ガール』(79年)でグラミー賞を受賞します。デビュー当初はアメリカン・ロックのアーティストやファンから熱い支持を得ていましたが、今や彼女はカントリー界に止まらず、アメリカを代表するヴォーカリストとして世界的に認知されている存在となりました。

さてここに「O SISTER!」というCDがあります。映画「O BROTHER!」にひっかけたタイトルはいかにも便乗そのものですが、聴いてみると確かにこれしかタイトルのつけようがない内容なのです。「サリヴァンの旅」からとったという「O Brother, Where Art Thou?」から、さらに「O SISTER!」が生まれるという妙、女声ブルーグラス・ファンは必ず聴いてみるべきでしょう。ブルーグラスの今を知る意味で最適な一枚だと思います。

O SISTER! WOMEN’S BLUEGRASS COLLECTION
1. If Wishes Were Horses - Claire Lynch
2. Silver Tongue and Gold Plated Lies - Suzanne Thomas
3. Sad Situation - Delia Bell
4. True Life Blues - Hazel Dickens and Alice Gerrard
5. Lonesome Wind Blues - Rhonda Vincent
6.Pardon Me - Cox Family
7.Old River - Hazel Dickens and Ginny Hawker
8.You Tried to Ruin My Name - Wilma Lee Cooper
9.I Can't Find Your Love Any More - Hazel Dickens
10.Just Like Rain - Kathy Kallick with Laurie Lewis
11.Mama's Hand - Lynn Morris
12.Every Time You Say Goodbye - Alison Krauss
13.Blue - The Stevens Sisters
14.Time is Winding Up - Ginny Hawker and Carol Elizabeth Jones
15.Blow, Big Wind - Laurie Lewis
16.Will There Be Any Stars? - The Cox Family with Alison Krauss
17.The Last Old Shovel - Phyllis Boyens
18.Comin' Down from God - Carol Elizabeth Jones
19.Eight More Miles - Laurie Lewis, Claire Lynch, Lynn Morris & Rhonda Vincent
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-23 10:36 | プロローグ

04 「O Brother!」のサントラ盤がライヴで

a0038167_1047818.jpgテネシー州ナッシュビルというと、カントリー・ミュージックの都として有名です。数多くのレコーディング・スタジオやレコード会社、楽器店、CDショップ、ライヴ・ハウスが街中に軒を連ねているそうです(ぼくは一度も行ったことがないので、これはあくまで情報頼りですが…)。

このナッシュビルに、「オープリー・ハウス」というカントリー・ミュージックの殿堂的なコンサート・ホールがあります。1925年から始まったラジオ番組「WSMバーン・ダンス」は、当時、ライマン公会堂を使っての生放送でしたが、これが予想以上の大成功を収めたのでした。

これに気をよくした地元のラジオ局WSMーAM650は思い切ってナッシュビル郊外に広大な土地を購入し、「オープリーランド」というテーマ・パークを開園させました。もちろん公開放送の収録もここで行うことにして、ラジオだけでなくテレビの方にも進出を決定しました。中には公開録音スタジオの「オープリー・ハウス」と楽しい遊園地があり、現在でもカントリー・ミュージックの中心として全国民に親しまれています。

この「オープリー・ハウス」で、2000年5月24日に「オー・ブラザー」のサウンド・トラックに基づいたショウが行われました。ここではソングライターであり、バンジョー・プレイヤー、そしてフィドラーでもあるジョン・ハートフォードが、独特の飄々とした語り口でジョークを交えながら司会、進行役を務め、次々とアーティストを紹介していきます。

そこには、アメリカ南部の誇り高き女性シンガー、エミルー・ハリスがいます。そして彼女がレコーディングした「Orphan Girl」によって一躍ナッシュビルでのソングライターの位置を確立したと言われるギリアン・ウェルチもいます。ギリアンを支えるかのように歌うのはアリソン・クラウスです。この当時のアリソンは若干30歳にして堂々たる貫禄を見せてくれます。さもありなん、彼女は今やポップ・カントリーの世界においてその才能を認められたシンガー、フィドラーとしてだけではなく、コックス・ファミリーやニッケル・クリークなどの作品を手がける名プロデューサーとしても評価が高いのです。

エミルー、アリソンと並んでショウの中心に立つのがギタリストのノーマン・ブレイクです。マンドリン・プレイヤーとしてそのキャリアをスタートさせた彼の作品は、ボブ・デュランをはじめジョーン・バエズ、ジョニー・キャッシュらのアルバムにセッション参加しているものを除いても、すでに30枚以上となっています。

映画「オー・ブラザー」でもラスト・シーン近くで登場するフェアフィールド・フォーは、77年のキャリアを持つ白人黒人混合のゴスペル・グループです。またさらに物語を通して常にスクリーンに現れているのがトミー・ジョンソン役のクリス・トーマス・キングです。彼はコンテンポラリー・ブルースのギタリストであり、シンガー、作曲家としてニューオリンズを基盤に活動を行っています。

作品中、最も可愛らしいパートを受け持ったのがピーサル・シスターズでした。長女サラが13歳、次女ハンナが10歳、三女リアが8歳と、微笑ましいコーラスを聴かせてくれます。

そして「オープリー・ハウス」でのトリを飾ったのは、サントラ盤同様ラルフ・スタンレーでした。司会のハートフォードは彼のことを「ナチュラル・キング・オブ・ブルーグラス」と紹介します。それはラルフが150枚以上ものブルーグラスのアルバムに名前をクレジットされていることからも伺えます。

このショウの模様はDVDとして販売されています。ただし国内盤は未発売ですので、通信販売などで購入されるといいでしょう。

なお、このショウを最後に人生の幕を閉じた司会者のジョン・ハートフォードですが、1967年にアルバム・デビューを果たした後、同年、彼の作曲による「ジェントル・オン・マイ・マインド」をグレン・キャンベルが歌って大ヒットさせたのです。これにより彼はグラミー賞作曲賞の栄誉に輝いています。そんな華々しい経歴を持ちながらもほのぼのとしたキャラクターと、彼の弾く素朴なフィドルの音によって多くの信奉者を持つジョン・ハートフォードは、ガンによる長年の闘病生活の末、ついに2001年6月4日に帰らぬ人となりました。享年65歳でした。(次号につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-22 10:46 | プロローグ

03 映画「オー・ブラザー」のサウンド・トラック盤

a0038167_21245585.jpgコーエン兄弟の映画『オー・ブラザー!』は、1930年代のアメリカ南部を舞台にしたコメディーで、ロード・ムービー風でとても楽しい物語となっていますが、その中で使われている音楽がこれまた素晴しいのです。

本国アメリカでは、この映画のヒットにともないサントラ盤も100万枚以上も売れて、それまではこういう古臭い音楽なんて見向きもしなかった若者までもがこのサントラ盤を買い、これにノック・アウトされて初心者用のバンジョーやマンドリンまでも買ってしまう人が続出しているということです。まさに「社会現象」の一つになってしまったわけですが、確かにこの映画のパワーってのはものすごいようです。映画を見終わった後に、思わずCDショップへ走ってサントラを買い求めたくなってしまう、そんな気持ちに駆り立ててしまう何かがあります。

さらには2001年度のグラミー賞において、U2、ボブ・ディランなどの巨匠たちを押さえて「最優秀アルバム」に選ばれ、ナッシュヴィル産の作品としては史上初の快挙ともなってしまった(日本のマスコミにはほとんど無視されていたようですが…)のです。このサントラの大ブレイクには、2001年9月に起こった米国テロ事件の影響によって「安らぎ」を求める傾向が強まっていたせいだ、という見方もあるほどです。

まぁそれはともかく、このサントラ盤は、やはり単なるサントラ盤以上の魅力があるのは確かです。つまり、単なる「寄せ集め」的なアルバムではなく、大部分がこのサントラのために新たにレコーディングされたもので、大御所も若手も入り乱れて現在活躍しているアーティストが多数登場しています。しかも、そうそうたる顔ぶれがそれぞれの個性を発揮しつつも、ばらばらな印象ではなく、きちんと1枚のアルバムとして仕上がっているのには感心します。その点では1972年に発表されたニッティ・グリティ・ダート・バンドの『永遠の絆(Will the Circle Be Unbroken)』に通じるものがあるのではないでしょうか。

この傑作アルバムを見事にまとめあげているのがプロデューサーのT・ボーン・バーネットです。彼はロック界においてももちろん大活躍していますが、『モンタナの風に抱かれて』など、映画音楽もけっこう手掛けているのです。

さて、このサントラ盤の内容の方ですが、前述したとおり、ただ映画で使われた曲を集めただけというアルバムではありません。選曲、演奏、そのどれをとっても素晴しいので、良質のルーツ・ミュージックのコンピレーションとしても楽しめるのではないでしょうか。ぼくの場合もこのサントラ盤で初めて演奏を聴いて、今度この人のアルバムを買ってみたいなぁと思ったり、いろいろと勉強になる部分も多かったように思えます。

さらに余談にはなりますが、このアルバム、サントラ盤としては珍しくブックレットも充実していて、解説もたっぷりあるのです。アート・ワークもなかなか素晴らしいので、買うならぜひ輸入盤の方がお薦め(国内盤は味気ないただのプラケース入りなので…)です。

ところで収録曲ですが、子供の頃から馴染んでいた曲の一つである「You Are My Sunshine」があります。これはルイジアナ州知事だったジミー・デイヴィスの作で、元々は選挙のキャンペーン・ソングとして作られたものということです。ここでは前述の『Will the Circle Be Unbroken』にも参加していたノーマン・ブレイクが枯れた味わいの歌声&ギターを聴かせてくれます。

それから他にも、ベテラン勢ではこのサントラで歌った「O Death」で(KKKの集会の場面で登場していた曲)、御年75歳にして初のグラミー受賞となったラルフ・スタンレーの存在感はやはり圧倒的です。最後に登場しているスタンレー・ブラザーズによる「Angel Band」も素晴らしいではありませんか。

そしてこのサントラ盤、およびこのサントラに参加したアーティストらが集まったコンサート「Down from the Mountain」が遺作となってしまった、ジョン・ハートフォードの演奏が聴けるのも嬉しい限りです。享年65歳だったそうで、ご冥福をお祈りいたします。

若手では、このサントラ盤だけではなく、自身の作品でも各賞総なめ状態のアリソン・クラウスとユニオン・ステーションの面々がひときわ光っています。彼女の清澄なボーカルが印象的な「Down to the River Pray」、そしてなんと言っても、「スブ濡れボーイズ」が歌う「I'm a Man of Constant Sorrow」、これは実際にはユニオン・ステーションのメンバーでもあるダン・ティミンスキがリードを歌っていて、これまた素晴しいギター演奏も彼の手によるものです。しかもこの曲、何とあの『空耳アワー』にも登場していました。

それからこのダン・ティミンスキを含め、ユニオン・ステーションのメンバーは他の曲にも色々と参加していて、中でも映画でデルマー役を演じたティム・ブレイク・ネルソン&ユニオン・ステーションといった感じの「In the Jailhouse Now」が最高です。この曲は1920年代に活躍したジミー・ロジャースの作です。

他にも、登場場面は少ないながら強烈な存在感のギリアン・ウェルチ、アリソン・クラウスとのデュエットによる「I'll Fly Away」もいいし、さらにエミルー・ハリスを加えた3人娘(?)による「Didn't Leave Nobody But the Baby」はまさに魂を抜かれてしまいそうなほど魅力的です。

PO LAZARUS*-James Carter & the Prisoners
BIG ROCK CANDY MOUNTAIN*-Harry McClintock
YOU ARE MY SUNSHINE-Norman Blake
DOWN TO THE RIVER TO PRAY-Alison Krauss
I AM A MAN OF CONSTANT SORROW-The Soggy Bottom Boys
HARD TIME KILLING FLOOR BLUES-Chris Thomas King
I AM A MAN OF CONSTANT SORROW-Norman Blake
KEEP ON THE SUNNY SIDE-The Whites
I'LL FLY AWAY-Alison Krauss and Gillian Welch
DIDN'T LEAVE NOBODY BUT THE BABY-Emmylou Harris, Alison Krauss and Gillian Welch
IN THE HIGHWAYS-Sarah, Hannah, and Leah Peasall
I AM WEARY (LET ME REST)-The Cox Family
I AM A MAN OF CONSTANT SORROW-John Hartford
O DEATH-Ralph Stanley
IN THE JAILHOUSE NOW-The Soggy Bottom Boys
I AM A MAN OF CONSTANT SORROW-The Soggy Bottom Boys
INDIAN WAR WHOOP-John Hartford
LONESOME VALLEY-Fairfield Four
ANGEL BAND*-The Stanley Brothers
Produced by T Bone Burnett (except *)
(次回に続く)

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by scoop8739 | 2004-07-20 21:10 | プロローグ

02 ブルーグラス音楽って何?

ぼくがいつも「ブルーグラス音楽」のことを話すと、大抵の人は「どんな音楽ですか?」と聞いてきます。そこでぼくは、「アメリカのフォーク・ソングとカントリー音楽を足して2で割ったようなもので、バンジョーやらバイオリンなんかを使って演奏されるもの」と答えています。

「ブルーグラス音楽」を聴いてもらう時に一番ポピュラーな曲としては、映画『俺たちに明日はない』のテーマにも使われた「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」(Foggy Mountain Breakdown)を挙げています。この曲はバンジョーを中心とした器楽曲(インストゥルメンタル)ですが、こう言うと、「あヽあの駆け出したくなるような音楽ね…」と、これまた短絡的にイメージされる方がおられます。それはそれで決して間違ってはいないのですが、「ブルーグラス音楽」には駆け出さなくていい曲もたくさんあります。例えば「ケンタッキーの青い月」(Blue Moon Of Kentucky)という曲は、エルヴィス・プレスリーのマイナー・レーベル(サン・レコード)時代のデビュー・レコード「ザッツ・オールライト・ママ」(That’s Alright Mama)のカップリング曲としても有名ですが、スローなバラード仕立ての佳曲です。

また、「ブルーグラス音楽」を演奏する代表的な歌手(グループ)と言ってもあまり一般的ではありませんが、「ブルーグラス音楽」の創始者であるビル・モンローと彼のブルー・グラス・ボーイズ(Bill Monroe and His Blue Grass Boys)や、先ほどの「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」という曲を演奏したレスター・フラットとアール・スクラッグスとフォギー・マウンテン・ボーイズ(Lester Flatt & Earl Scruggs, and The Foggy Mountain Boys)、そして彼らと同時期に活動を始めたスタンレー・ブラザーズとクリンチ・マウンテン・ボーイズ(Stanley Brothers and The Clinch Mountain Boys)の3つのグループが古典的な意味でブルーグラス音楽を代表するバンドだと言えます。

ところで、「ブルーグラス音楽」を定義するには少し議論が必要に思えますので、簡単にぼくなりの見解を述べさせていただきますと、「ブルーグラス音楽」とは1940年代半ばにビル・モンローを中心として作られたもので、音楽ジャンルとしては一般的には「カントリー&ウェスタン」 の中に分類されます。「ブルーグラス」の名が示す通り、土の香り豊かな民族音楽としてアメリカのテネシー州、ケンタッキー州など合衆国の南東部を中心に世代を超えて根強いファンによって支持され続けている音楽なのです。最近、コーエン兄弟の製作した映画「オー・ブラザー」がヒットし再びブルーグラス音楽が脚光を浴びるようになりましたが、こうした下地があってこその結果だと思えます。(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-20 11:13 | プロローグ