カテゴリ:プロローグ( 6 )

07 ポップスへのアプローチ(2)

a0038167_1049848.jpg1960年代はブルーグラス音楽が大きく様変わりした時代です。フォーク・ムーブメントの影響で聴衆層が広がり、これに応えるように演奏内容がフォークソングを中心としたものに変わっていきました。レスター・フラットとアール・スクラッグスのようにモダン・フォークソング的なものへとスタイルを変えていくものや、オズボーン・ブラザースやジム&ジェシーのように楽器に電気を通してカントリー音楽に近づくものなど様々でした。

ワシントンD.C.出身のカントリー・ジェントルメンはブルーグラスに新しいジャンルを取り入れました。それは、レス・ポールとメリー・フォードの名曲「世界は日の出を待っている」をジャズ風にアレンジした曲「サン・ライズ」や、ポール・ホワイトマン楽団の「ウィスパリング」をアレンジした曲「心の痛手」などです。カントリー・ジェントルメンはまた、ビートルズの「イエスタデイ」や、サイモンとガーファンクルの「ミセス・ロビンソン」などのポップスもアレンジしてレコードに残しました。

そして60年代後半になると世の中はビートルズやローリング・ストーンズらを中心としたロックの時代に突入します。これに呼応するかのように新しいスタイルのブルーグラスが登場します。その代表となるグループがブルーグラス・アライアンスで、彼らが取り上げたのがボブ・ディランやゴードン・ライトフットの曲でした。アライアンスは「ニュー・グラス」という名のアルバムを残していますが、ここから「ニューグラス時代」が始まったのです。

このアライアンスは数年のうちにメンバー・チェンジを繰り返し次世代のニュー・ヒーローたちを輩出します。ギターの名手トニー・ライス、マンドリンとフィドルのサム・ブッシュらがそうでした。1970年代は彼らが中心となってニューグラスの花が開きます。サム・ブッシュの率いるニュー・グラス・リバイバルはジェリー・リー・ルイスの「火の玉ロック」で鮮烈なデビューを果たし、一方のトニー・ライスはバンジョーのJ.D.クロウのバンドに加わって、ファッツ・ドミノの「アイム・ウォーキン」を含むアルバムで活躍の場を見つけたのでした。

また、カントリー・ジェントルメンを脱退したマンドリンのジョン・ダフィーは、さらにプログレッシブ志向の強いグループ、セルダム・シーンを立ち上げます。彼らは、クリフ・ウォルドロンが進めていたコンテンポラリー・ロック(クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル)、ソウル(アル・ウィルソン)、カントリー(マール・ハガード)へのアプローチをより進化させることに成功します。

さらに、もう一つの流れが西海岸でも起こりました。カントリー・ロックのグループ、フライング・バリトウ・ブラザーズが、彼らのコンサートの中にブルーグラス・セグメントを組み込んでツアーを開始したのです。この時に生まれたユニットが、のちのカントリー・ガゼットと発展していきます。ブリトウズの解散後、彼らはユナイテッド・アーティスツと契約しアルバムをリリースします。これは古いカントリーやブルーグラスと新しいカントリー・ロックを結びつけたもので、LAカントリー・ロックの特徴であるダブル・トラックのハーモニーを入れた、西海岸サウンドらしい爽やかなコーラス・ワークが満喫できるポップ感覚溢れる素晴らしいアルバムとなっています。

こうして1960年代以降、さまざまな形でブルーグラス音楽はポップスとの接近を図ります。次に挙げるCDに収録されているのは、ブルーグラス・アレンジによるポップスの数々です。フォークありロックありカントリーありと、様々なジャンルの曲が独自のアプローチでブルーグラス音楽となっています。これも初心者には最適な一枚となることでしょう。

Bluegrass Goes to Town : Pop Songs Bluegrass Style(Rounder)
1. Friend of the Devil - Rice, Rice, Hillman & Pedersen
2. Hitchcock Railway - Claire Lynch
3. Bye Bye Love - Spectrum
4. Don't Think Twice, It's All Right - The Rice Brothers
5. Blue Bayou - The Cox Family
6. Can't Find My Way Home - Rob Ickes with Tim O'Brien
7. Heartbreak Hotel - The Doug Dillard Band
8. I Will - Tony Furtado with Alison Krauss
9. Bridge Over Troubled Water - The Whitstein Brothers
10. Jolene - Rhonda Vincent
11. Piece of My Heart - John Hartford
12. I'm Walkin' - J.D. Crowe & the New South
13. (Now and Then There's) A Fool Such as I - Tasty Licks
14. World Turning - Tony Trischka with Dudley Connell and Alison Krauss
15. What Goes On - Joe Val & the New England Bluegrass Boys
16. Only You (And You Alone) - IIIrd Tyme Out
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-25 10:50 | プロローグ

06 ポップスへのアプローチ(1)

a0038167_10182829.jpg映画「オー・ブラザー」のメガ・ヒットや、アリソン・クラウス、エミルー・ハリスらの活躍によって、ブルーグラス音楽は他ジャンルのファンからも再認識され始めていますが、まだまだこの土臭い香りのする音楽は一般的なヒットをもたらすことはありません。

1960年初頭に起きたフォーク・リバイバル・ブームによって、それまではアメリカ南東部アパラチアン山岳地方でのみ受け入れられていたブルーグラス音楽は一気に大都会に進出します。とくにニューポートで行われるフォーク・フェスティバルに代表されるように、東部の大学生を中心によく聴かれたようです。

ブルーグラス音楽がフォーク・フェスティバルにおけるスタンダードな音楽として重要な位置を占めるようになるにつれて、フォーク・ミュージックへの進出は一種の流行となり、彼らはカレッジ・フォーク・コンサートを活動の場として、ブルーグラス音楽としては異例の商業的成功をおさめるのでした。その中心となったのがレスター・フラットとアール・スクラッグスのフォギー・マウンテン・ボーイズや、スタンレー兄弟のクリンチ・マウンテン・ボーイズでした。

なかでも1960年代に入ってからのフラット&スクラッグスは、50年代に聴かせたハードなブルーグラス・スタイルのすべてを捨て去り、極めてモダン・フォークソング的な耳障りの良いバンドへとスタイルを変え、60年代の中頃にはブルーグラス・ファンからかけ離れた存在と化してしまいます。しかし、1962年の「じゃじゃ馬億万長者」(The Ballad Of Jed Clampett)のビッグ・ヒットは、彼らを狭いブルーグラス・マーケットから無限の広がりを持つフォークやポップスのマーケットへ進出させた決定打と言ってもよいでしょう。そしてこの時代の活躍が後の広い人脈を作る基礎になったのです。

その後、ワシントンD.C.のカントリー・ジェントルメン、グリーンブライア・ボーイズやニュー・ロストシティ・ランブラーズの活躍と、西海岸からディーラーズやケンタッキー・カーネルズの出現によってにわかにブルーグラス・シーンが活気づき始めます。

そんな中、東海岸に現れたチャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズという大学生バンドが、ビートルズの曲をカバーしたアルバム「ビートル・カントリー」をリリースします。ぼくのような「ビートルズ大好き」人間は、それがどんなものであろうと有無も言わさず買ってしまうのですが、これがまたなかなか素晴らしいアルバムだったのです。このLPが発売されたのが1966年。ビートルズ全盛期の便乗企画物と言えばそれまでですが、ブルーグラスにアレンジしたというので言えば、これが最初のものではないでしょうか。

1曲目の「I'VE JUST SEEN A FACE」は軽快な曲調がカントリーのアレンジに違和感なく馴染みます。3曲目の「I FEEL FINE」もなかなかいい感じです。でも、さすがに5曲目の「TICKET TO RIDE」はちょっとなぁ、というアレンジです。なんといってもハッピーなのが4曲目の「YELLOW SUBMARINE」でしょう。たとえ音頭になろうとカントリーにアレンジされようと、この曲の脳天気さは普遍的だと言えます。

CHARLES RIVER VALLEY BOYS / BEATLE COUNTRY
1. I've Just Seen A Face
2. Baby's In Black
3. I Feel Fine
4. Yellow Submarine
5. Ticket To Ride
6. And Your Bird Can Sing
7. What Goes On
8. Norwegian Wood
9. Paperback Writer
10. She's A Woman
11. I Saw Her Standing There
12. Help!
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-24 10:19 | プロローグ

05 女性ブルーグラッサー大活躍

a0038167_1343987.jpgブルーグラス音楽は、ビル・モンローを中心としてレスター・フラットやアール・スクラッグスらによって形付けられた1945年を元年とすると、まもなく生誕60年を迎えます。この間、艱難辛苦の時期やフォーク・リバイバルのブームなどを乗り越えて、今日のニュー・トラッドやアコースティック・カントリー、そして女性プレイヤーの大活躍により、1970年代に匹敵する賑わいとサウンドの多様化をみせています。

とくに女性プレイヤーは、古くからブルーグラスやその前身のサザン・マウンテン・フォーク・ミュージックでは、カーター・ファミリーなど多くが活躍していますが、女性ブルーグラッサーの台頭はバークレー周辺でのローリー・ルイスやキャシー・キャリックの活動、そして15歳のときにニューポート・フォーク・フェスティバルに出演し、18歳にしてグラミー賞にノミネートされたというアリソン・クラウスによって花開いたといえるでしょう。

このアリソン・クラウスの登場によって、それまでは男性プレイヤーが中心だったブルーグラスの世界が一気に広がりました。ドライブ感に少し見劣りが感じられるものの、繊細で華麗な楽器演奏、宗教歌などのカルテット・コーラスで聴くことのできる女性ならではの優雅なコーラス・ワークを堪能できます。

主な女性ブルーグラッサーとして、そのアリソン・クラウスに見いだされたエヴァリンとスーザンのコックス・ファミリーをはじめ、ロンダ・ヴィンセント、リン・モリス、キャシー・キャリック、デール・アン・ブラッドリー、アリソン・ブラウン、ケイト・マッケンジーなどが挙げられます。彼女たちはバンドを組んだり、個々に活動したりと、男性プレイヤーに負けない力強さを持ち、時にはその優雅さが魅力となり活躍しています。こうした女性の進出は一時的な流行から本格的なものへ、さらには確実な定着さえ感じさせる昨今です。

女性の台頭を語る時にもう一人、ブルーグラスとの相乗効果としてアコースティック・カントリーのエミルー・ハリスの人気と実力を忘れることができません。彼女は1947年、アラバマ州バーミングハムの生まれで、ジョーン・バエズやバック・オウエンスなどの影響を受けキャリアをスタートさせました。ワシントンに移住後、元バーズ、フライング・ブリトー・ブラザーズのグラム・パーソンズとの出会いを契機にフォーク、ブルーグラス・シーンで活躍を始め、1975年にリプリーズよりアルバム『緑の天使』でメジャー・デビューを果たします。その可憐で澄んだ歌声は各方面から大絶賛を浴びるようになり、1970年代には、『エリート・ホテル』(76年)、『ブルー・ケンタッキー・ガール』(79年)でグラミー賞を受賞します。デビュー当初はアメリカン・ロックのアーティストやファンから熱い支持を得ていましたが、今や彼女はカントリー界に止まらず、アメリカを代表するヴォーカリストとして世界的に認知されている存在となりました。

さてここに「O SISTER!」というCDがあります。映画「O BROTHER!」にひっかけたタイトルはいかにも便乗そのものですが、聴いてみると確かにこれしかタイトルのつけようがない内容なのです。「サリヴァンの旅」からとったという「O Brother, Where Art Thou?」から、さらに「O SISTER!」が生まれるという妙、女声ブルーグラス・ファンは必ず聴いてみるべきでしょう。ブルーグラスの今を知る意味で最適な一枚だと思います。

O SISTER! WOMEN’S BLUEGRASS COLLECTION
1. If Wishes Were Horses - Claire Lynch
2. Silver Tongue and Gold Plated Lies - Suzanne Thomas
3. Sad Situation - Delia Bell
4. True Life Blues - Hazel Dickens and Alice Gerrard
5. Lonesome Wind Blues - Rhonda Vincent
6.Pardon Me - Cox Family
7.Old River - Hazel Dickens and Ginny Hawker
8.You Tried to Ruin My Name - Wilma Lee Cooper
9.I Can't Find Your Love Any More - Hazel Dickens
10.Just Like Rain - Kathy Kallick with Laurie Lewis
11.Mama's Hand - Lynn Morris
12.Every Time You Say Goodbye - Alison Krauss
13.Blue - The Stevens Sisters
14.Time is Winding Up - Ginny Hawker and Carol Elizabeth Jones
15.Blow, Big Wind - Laurie Lewis
16.Will There Be Any Stars? - The Cox Family with Alison Krauss
17.The Last Old Shovel - Phyllis Boyens
18.Comin' Down from God - Carol Elizabeth Jones
19.Eight More Miles - Laurie Lewis, Claire Lynch, Lynn Morris & Rhonda Vincent
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-23 10:36 | プロローグ

04 「O Brother!」のサントラ盤がライヴで

a0038167_1047818.jpgテネシー州ナッシュビルというと、カントリー・ミュージックの都として有名です。数多くのレコーディング・スタジオやレコード会社、楽器店、CDショップ、ライヴ・ハウスが街中に軒を連ねているそうです(ぼくは一度も行ったことがないので、これはあくまで情報頼りですが…)。

このナッシュビルに、「オープリー・ハウス」というカントリー・ミュージックの殿堂的なコンサート・ホールがあります。1925年から始まったラジオ番組「WSMバーン・ダンス」は、当時、ライマン公会堂を使っての生放送でしたが、これが予想以上の大成功を収めたのでした。

これに気をよくした地元のラジオ局WSMーAM650は思い切ってナッシュビル郊外に広大な土地を購入し、「オープリーランド」というテーマ・パークを開園させました。もちろん公開放送の収録もここで行うことにして、ラジオだけでなくテレビの方にも進出を決定しました。中には公開録音スタジオの「オープリー・ハウス」と楽しい遊園地があり、現在でもカントリー・ミュージックの中心として全国民に親しまれています。

この「オープリー・ハウス」で、2000年5月24日に「オー・ブラザー」のサウンド・トラックに基づいたショウが行われました。ここではソングライターであり、バンジョー・プレイヤー、そしてフィドラーでもあるジョン・ハートフォードが、独特の飄々とした語り口でジョークを交えながら司会、進行役を務め、次々とアーティストを紹介していきます。

そこには、アメリカ南部の誇り高き女性シンガー、エミルー・ハリスがいます。そして彼女がレコーディングした「Orphan Girl」によって一躍ナッシュビルでのソングライターの位置を確立したと言われるギリアン・ウェルチもいます。ギリアンを支えるかのように歌うのはアリソン・クラウスです。この当時のアリソンは若干30歳にして堂々たる貫禄を見せてくれます。さもありなん、彼女は今やポップ・カントリーの世界においてその才能を認められたシンガー、フィドラーとしてだけではなく、コックス・ファミリーやニッケル・クリークなどの作品を手がける名プロデューサーとしても評価が高いのです。

エミルー、アリソンと並んでショウの中心に立つのがギタリストのノーマン・ブレイクです。マンドリン・プレイヤーとしてそのキャリアをスタートさせた彼の作品は、ボブ・デュランをはじめジョーン・バエズ、ジョニー・キャッシュらのアルバムにセッション参加しているものを除いても、すでに30枚以上となっています。

映画「オー・ブラザー」でもラスト・シーン近くで登場するフェアフィールド・フォーは、77年のキャリアを持つ白人黒人混合のゴスペル・グループです。またさらに物語を通して常にスクリーンに現れているのがトミー・ジョンソン役のクリス・トーマス・キングです。彼はコンテンポラリー・ブルースのギタリストであり、シンガー、作曲家としてニューオリンズを基盤に活動を行っています。

作品中、最も可愛らしいパートを受け持ったのがピーサル・シスターズでした。長女サラが13歳、次女ハンナが10歳、三女リアが8歳と、微笑ましいコーラスを聴かせてくれます。

そして「オープリー・ハウス」でのトリを飾ったのは、サントラ盤同様ラルフ・スタンレーでした。司会のハートフォードは彼のことを「ナチュラル・キング・オブ・ブルーグラス」と紹介します。それはラルフが150枚以上ものブルーグラスのアルバムに名前をクレジットされていることからも伺えます。

このショウの模様はDVDとして販売されています。ただし国内盤は未発売ですので、通信販売などで購入されるといいでしょう。

なお、このショウを最後に人生の幕を閉じた司会者のジョン・ハートフォードですが、1967年にアルバム・デビューを果たした後、同年、彼の作曲による「ジェントル・オン・マイ・マインド」をグレン・キャンベルが歌って大ヒットさせたのです。これにより彼はグラミー賞作曲賞の栄誉に輝いています。そんな華々しい経歴を持ちながらもほのぼのとしたキャラクターと、彼の弾く素朴なフィドルの音によって多くの信奉者を持つジョン・ハートフォードは、ガンによる長年の闘病生活の末、ついに2001年6月4日に帰らぬ人となりました。享年65歳でした。(次号につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-22 10:46 | プロローグ

03 映画「オー・ブラザー」のサウンド・トラック盤

a0038167_21245585.jpgコーエン兄弟の映画『オー・ブラザー!』は、1930年代のアメリカ南部を舞台にしたコメディーで、ロード・ムービー風でとても楽しい物語となっていますが、その中で使われている音楽がこれまた素晴しいのです。

本国アメリカでは、この映画のヒットにともないサントラ盤も100万枚以上も売れて、それまではこういう古臭い音楽なんて見向きもしなかった若者までもがこのサントラ盤を買い、これにノック・アウトされて初心者用のバンジョーやマンドリンまでも買ってしまう人が続出しているということです。まさに「社会現象」の一つになってしまったわけですが、確かにこの映画のパワーってのはものすごいようです。映画を見終わった後に、思わずCDショップへ走ってサントラを買い求めたくなってしまう、そんな気持ちに駆り立ててしまう何かがあります。

さらには2001年度のグラミー賞において、U2、ボブ・ディランなどの巨匠たちを押さえて「最優秀アルバム」に選ばれ、ナッシュヴィル産の作品としては史上初の快挙ともなってしまった(日本のマスコミにはほとんど無視されていたようですが…)のです。このサントラの大ブレイクには、2001年9月に起こった米国テロ事件の影響によって「安らぎ」を求める傾向が強まっていたせいだ、という見方もあるほどです。

まぁそれはともかく、このサントラ盤は、やはり単なるサントラ盤以上の魅力があるのは確かです。つまり、単なる「寄せ集め」的なアルバムではなく、大部分がこのサントラのために新たにレコーディングされたもので、大御所も若手も入り乱れて現在活躍しているアーティストが多数登場しています。しかも、そうそうたる顔ぶれがそれぞれの個性を発揮しつつも、ばらばらな印象ではなく、きちんと1枚のアルバムとして仕上がっているのには感心します。その点では1972年に発表されたニッティ・グリティ・ダート・バンドの『永遠の絆(Will the Circle Be Unbroken)』に通じるものがあるのではないでしょうか。

この傑作アルバムを見事にまとめあげているのがプロデューサーのT・ボーン・バーネットです。彼はロック界においてももちろん大活躍していますが、『モンタナの風に抱かれて』など、映画音楽もけっこう手掛けているのです。

さて、このサントラ盤の内容の方ですが、前述したとおり、ただ映画で使われた曲を集めただけというアルバムではありません。選曲、演奏、そのどれをとっても素晴しいので、良質のルーツ・ミュージックのコンピレーションとしても楽しめるのではないでしょうか。ぼくの場合もこのサントラ盤で初めて演奏を聴いて、今度この人のアルバムを買ってみたいなぁと思ったり、いろいろと勉強になる部分も多かったように思えます。

さらに余談にはなりますが、このアルバム、サントラ盤としては珍しくブックレットも充実していて、解説もたっぷりあるのです。アート・ワークもなかなか素晴らしいので、買うならぜひ輸入盤の方がお薦め(国内盤は味気ないただのプラケース入りなので…)です。

ところで収録曲ですが、子供の頃から馴染んでいた曲の一つである「You Are My Sunshine」があります。これはルイジアナ州知事だったジミー・デイヴィスの作で、元々は選挙のキャンペーン・ソングとして作られたものということです。ここでは前述の『Will the Circle Be Unbroken』にも参加していたノーマン・ブレイクが枯れた味わいの歌声&ギターを聴かせてくれます。

それから他にも、ベテラン勢ではこのサントラで歌った「O Death」で(KKKの集会の場面で登場していた曲)、御年75歳にして初のグラミー受賞となったラルフ・スタンレーの存在感はやはり圧倒的です。最後に登場しているスタンレー・ブラザーズによる「Angel Band」も素晴らしいではありませんか。

そしてこのサントラ盤、およびこのサントラに参加したアーティストらが集まったコンサート「Down from the Mountain」が遺作となってしまった、ジョン・ハートフォードの演奏が聴けるのも嬉しい限りです。享年65歳だったそうで、ご冥福をお祈りいたします。

若手では、このサントラ盤だけではなく、自身の作品でも各賞総なめ状態のアリソン・クラウスとユニオン・ステーションの面々がひときわ光っています。彼女の清澄なボーカルが印象的な「Down to the River Pray」、そしてなんと言っても、「スブ濡れボーイズ」が歌う「I'm a Man of Constant Sorrow」、これは実際にはユニオン・ステーションのメンバーでもあるダン・ティミンスキがリードを歌っていて、これまた素晴しいギター演奏も彼の手によるものです。しかもこの曲、何とあの『空耳アワー』にも登場していました。

それからこのダン・ティミンスキを含め、ユニオン・ステーションのメンバーは他の曲にも色々と参加していて、中でも映画でデルマー役を演じたティム・ブレイク・ネルソン&ユニオン・ステーションといった感じの「In the Jailhouse Now」が最高です。この曲は1920年代に活躍したジミー・ロジャースの作です。

他にも、登場場面は少ないながら強烈な存在感のギリアン・ウェルチ、アリソン・クラウスとのデュエットによる「I'll Fly Away」もいいし、さらにエミルー・ハリスを加えた3人娘(?)による「Didn't Leave Nobody But the Baby」はまさに魂を抜かれてしまいそうなほど魅力的です。

PO LAZARUS*-James Carter & the Prisoners
BIG ROCK CANDY MOUNTAIN*-Harry McClintock
YOU ARE MY SUNSHINE-Norman Blake
DOWN TO THE RIVER TO PRAY-Alison Krauss
I AM A MAN OF CONSTANT SORROW-The Soggy Bottom Boys
HARD TIME KILLING FLOOR BLUES-Chris Thomas King
I AM A MAN OF CONSTANT SORROW-Norman Blake
KEEP ON THE SUNNY SIDE-The Whites
I'LL FLY AWAY-Alison Krauss and Gillian Welch
DIDN'T LEAVE NOBODY BUT THE BABY-Emmylou Harris, Alison Krauss and Gillian Welch
IN THE HIGHWAYS-Sarah, Hannah, and Leah Peasall
I AM WEARY (LET ME REST)-The Cox Family
I AM A MAN OF CONSTANT SORROW-John Hartford
O DEATH-Ralph Stanley
IN THE JAILHOUSE NOW-The Soggy Bottom Boys
I AM A MAN OF CONSTANT SORROW-The Soggy Bottom Boys
INDIAN WAR WHOOP-John Hartford
LONESOME VALLEY-Fairfield Four
ANGEL BAND*-The Stanley Brothers
Produced by T Bone Burnett (except *)
(次回に続く)

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by scoop8739 | 2004-07-20 21:10 | プロローグ

02 ブルーグラス音楽って何?

ぼくがいつも「ブルーグラス音楽」のことを話すと、大抵の人は「どんな音楽ですか?」と聞いてきます。そこでぼくは、「アメリカのフォーク・ソングとカントリー音楽を足して2で割ったようなもので、バンジョーやらバイオリンなんかを使って演奏されるもの」と答えています。

「ブルーグラス音楽」を聴いてもらう時に一番ポピュラーな曲としては、映画『俺たちに明日はない』のテーマにも使われた「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」(Foggy Mountain Breakdown)を挙げています。この曲はバンジョーを中心とした器楽曲(インストゥルメンタル)ですが、こう言うと、「あヽあの駆け出したくなるような音楽ね…」と、これまた短絡的にイメージされる方がおられます。それはそれで決して間違ってはいないのですが、「ブルーグラス音楽」には駆け出さなくていい曲もたくさんあります。例えば「ケンタッキーの青い月」(Blue Moon Of Kentucky)という曲は、エルヴィス・プレスリーのマイナー・レーベル(サン・レコード)時代のデビュー・レコード「ザッツ・オールライト・ママ」(That’s Alright Mama)のカップリング曲としても有名ですが、スローなバラード仕立ての佳曲です。

また、「ブルーグラス音楽」を演奏する代表的な歌手(グループ)と言ってもあまり一般的ではありませんが、「ブルーグラス音楽」の創始者であるビル・モンローと彼のブルー・グラス・ボーイズ(Bill Monroe and His Blue Grass Boys)や、先ほどの「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」という曲を演奏したレスター・フラットとアール・スクラッグスとフォギー・マウンテン・ボーイズ(Lester Flatt & Earl Scruggs, and The Foggy Mountain Boys)、そして彼らと同時期に活動を始めたスタンレー・ブラザーズとクリンチ・マウンテン・ボーイズ(Stanley Brothers and The Clinch Mountain Boys)の3つのグループが古典的な意味でブルーグラス音楽を代表するバンドだと言えます。

ところで、「ブルーグラス音楽」を定義するには少し議論が必要に思えますので、簡単にぼくなりの見解を述べさせていただきますと、「ブルーグラス音楽」とは1940年代半ばにビル・モンローを中心として作られたもので、音楽ジャンルとしては一般的には「カントリー&ウェスタン」 の中に分類されます。「ブルーグラス」の名が示す通り、土の香り豊かな民族音楽としてアメリカのテネシー州、ケンタッキー州など合衆国の南東部を中心に世代を超えて根強いファンによって支持され続けている音楽なのです。最近、コーエン兄弟の製作した映画「オー・ブラザー」がヒットし再びブルーグラス音楽が脚光を浴びるようになりましたが、こうした下地があってこその結果だと思えます。(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-20 11:13 | プロローグ