カテゴリ:不朽の名曲( 47 )

160 ナイトウォーク

(Nightwalk)

信じられないでしょうが、昔、こんな話を聞いたことがあります。

大学時代、音楽サークルの後輩におかしな症状を持つものがいた。彼の話では、自分は昔から夜中に寝ながらにして叫んだり家の中をうろついたりする奇妙な病気に悩まされていると言う。そんな話を聞かされていたある日、私は彼と一晩同部屋ですごす機会ができた。別にその症状を目の当たりにしようといった怖いもの見たさではなく、ちょうど学園祭の最中で、翌朝早くから校内で演奏するために数人でキャンパス近くの部員の下宿部屋になだれ込んだというだけの理由で、むしろしかたなくでありその後輩の症状については誰もがすでに忘れていた。

…さらに話は続きます。

酒のせいもあって、ほとんどの部員が寝てしまっている中で、私を含め2,3人はいまだ音楽談義に花を咲かせていた。するとベッドで既に寝ていたその後輩が突然ムクッと起き上がった。「何だ、起こしちゃったのか?」と誰かが言った。しかし様子がおかしい。目はうつろでフラフラと頭が揺れていて、丁度何かで見た薬物中毒の人間の様である。何かを探しているしぐさを見せていたが、ふと脇に立てかけてあったベース・ギターに目を止め、それをかかえて弾き出したのである。しばらくして手を休め、「せんぱーい!弾けないっすよお…」と一言、そのまま倒れ込んでしまった。恐る恐る覗き込むと、なんと彼は熟睡していたのである。始めは、コイツの言っていたことは本当だったのか!とみんなで大笑いだったのだ。

ずいぶんと長い前置きでしたが、「ナイトウォーク」ってそんなテーマの曲でしたっけ?

a0038167_2021635.jpgカントリー・ジェントルメンの“ジャズ路線”つながりのトリをとるこの曲は、バンジョー・パートのエディ・アドコックの作曲です。ベースのリフに乗って、ペプシ・コーラのビンを釘でたたいてリズムをとるピート・ロバーツ(カイケンダール)、それに続いて軽快なエディの非ブルーグラス的なバンジョー、さらにジャージーなジョン・ダフィーのマンドリン・プレイ。これは当時(1960年代前半)のブルーグラスの範疇を越えていました。そこで世間はこれを「ブルーグラス・ジャズ」と命名します。

この曲に見られるように、ブルーグラスには珍しいアドリヴまがいのフレーズが斬新だったのでしょうか、当時、彼らが演奏活動していたコーヒー・ハウスなどには現役のジャズメンがわざわざ聴きに来ていたと言われています。なお、この曲は2度録音されています。1度目は1963年4月にスターディにおいて、そして2度目が同年9月、あのマーキュリーの名盤「フォーク・セッション・インサイド」のための録音でした。

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by scoop8739 | 2006-01-06 20:05 | 不朽の名曲

159 心の痛手

(Heartaches)

カントリー・ジェントルメンの“ジャズ路線”つながりで紹介するのがこの曲です。これはとても古い曲で、1931年にジョン・クレナーが作詞し、アル・ホフマンが作曲したものですが、同年1月にガイ・ロンバード楽団によってレコーディングされ、4月から6月にかけてヒットしました。その後1933年にもテッド・ウィームス楽団がエルモ・タナーの口笛ソロをフィーチャーしビクターにおいて録音しています。これはルンバ風のアレンジと口笛の面白さで評判になっています。さらにウィームス楽団は1938年にも、タナーをフィーチャーしてデッカにて再録音し、この時はまずまずの結果だったようです。

a0038167_1832717.jpg第2次世界大戦がはじまり、楽団員が次々と戦地に赴くと彼はバンド活動を停止しますが、終戦を機に再編します。偶然にもこの1946年末にノース・カロライナのラジオDJが、13年前に録音された「ハート・エイクス」を気に入って繰り返しオンエアしたところ、全国的に火がつきヒット・パレードのトップに踊り出るという珍事が起こり、オールド・スタイルな彼のバンドは一躍注目の的となりました。

「ハート・エイクス」は1930年代当時としてはモダンなラテン・リズムのインストで、ノンビリしたメロディがなんとも心地いいナンバーでした。人々の耳を捉えた最大の要因は、2番のメロディをユーモラスな口笛で吹き通している点にあったのでしょう。この思いがけないヒットのお礼に、ウィームス楽団は件のラジオDJの誕生パーティーで出張演奏をプレゼントしたそうです。10年以上前に録音した曲を100万枚以上売ってくれたのですから、これくらいするのは当然ですよね。

この時期、彼はマーキュリーに所属していましたが、“インスタント・スマッシュ”を機に各社は競って彼の過去のカタログを再発します。RCAだけでなくデッカも1938年に再録音されたこの曲をリリースしています(ヒットチャートには両方のレコード番号が並記されていたようです)。再発売されたビクター盤とデッカ盤の両方がチャートに16週間も1位をマークしました。

a0038167_1842325.jpgこの曲をブルーグラス・アレンジしたのがカントリー・ジェントルメンでした。彼らはバンジョーのエディ・アドコックとマンドリンのジョン・ダフィーによるジャージーなインストゥルメンタルが売り物でした。この曲でも、エディはギターのマール・トラヴィスやチェット・アトキンスのギャロッピング奏法と、ダン・リーノウのスタイルをさらに発展させた画期的なフィンガリングを聴かせてくれます。これにジョンの華々しいマンドリン演奏が加わることによって作品をさらに完成度の高いものへと昇華させ、さらにトム・グレイの4ビート・ベースやチャーリーの刻むギターのリズムが彼らを好サポートし、よりジャズっぽさを強調させていったのでした。

この4人が同時に在籍している期間、つまり1961年の春から63年の夏までに数多くのライヴやスタジオ録音がなされていますが、中でもこの曲を収録したアルバム「フォーク・セッション・インサイド」はブルーグラスの名盤中の名盤と言っても過言ではないでしょう。

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by scoop8739 | 2006-01-02 18:05 | 不朽の名曲

158 サンライズ

(Sunrise)

お正月ということで威勢のいい元気な曲を紹介しましょう。この曲は正式には「The World Is Waiting For The Sunrise」(世界は日の出を待っている)とタイトルされています。

“世界は日の出を待っている。バラのつぼみは露に濡れ、つぐみは空で眠る仲間を呼び、私はあなたを呼んでいる”と歌われるこの曲は1919年、第一次世界大戦(同年6月にベルサイユ条約調印)に疲れた人々にアピールし、その名の通り世界的に大ヒットしました。たぶん「世界は日の出を待っている」というフレーズが夢と希望に満ちていて、大衆の乾ききった心に潤いと勇気を与えたのでしょう。

a0038167_054039.jpg作詞はカナダの演劇俳優兼詩人であったユージン・ロックハート、作曲は彼の友人でピアニスト兼交響楽団指揮者のアーネスト・J・サイツです。1951年にはレス・ポールとメリー・フォードのおしどりコンビがこの曲をリヴァイバルさせています。レスの軽快なギターに導かれるようにメリーの歌声も軽やかに響きます。レスはジャズ・ギタリストとしても知られていて、この曲で聴かれるような新しい演奏法を考案し人気スターとなりました。彼らは1948年に結婚しコンビを組み、「モッキン・バード・ヒル」「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」「ヴァィア・コン・ディオス」などのミリオン・セラーを放っています。

彼らのほかにも、オハイオ・ユニオンの歴史的名演で知られるジョージ・ルイスや、ベニー・グッドマンのコンボの演奏がこの曲のベスト3です。ちなみにこのタイトルから連想されるのは、その昔GSブーム期にタイガース主演の映画の題名でしたね。また1967年に、寺内タケシとバニーズが「世界はテリーを待っている/THE WORLD IS WAITING FOR "TERRY"」(テリーとは寺内タケシのニックネーム)というLPをリリースしています。

a0038167_074484.jpgおっと、話が少々脱線したようですが、ブルーグラスではカントリー・ジェントルメンを有名にした曲でもあります。この曲は彼らの“ジャズ路線”の代表的レパートリーで、曲全体がアドリヴのようでメロディー・ラインがまったく感じられないアレンジとなっています。非ブルーグラス的なエディ・アドコックのバンジョー・プレイがユニークです。

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by scoop8739 | 2006-01-01 00:13 | 不朽の名曲

101 バイブルを道標に

(I’m Using My Bible For A Road Map)

ロニー・リーノウは、父ドンのもとで幼くしてプロ・デビューをしています。以来40年、大ベテランの域に達した彼が弟たちとのレノ・ブラザーズを解散した後、新たに結成したのがリーノウ・トラディションでした。

a0038167_1629012.jpgこのリーノウ・トラディションには、ニュー・トラディションで活躍していたダニー・ロバーツ(m)、ジム&ジェシーのバンドで来日経験があるマイク・スコット(bj)、ヒース・ヴァン・ウィンクル(bs)、ジャッキー・ミラー(f)が在籍し、ここに弟のデイル(m)とドン・ウェイン(bj)、リッキー・シンプキンズ、グレン・ダンカン、ロブ・アイクスなどが参加してデビュー・アルバム「ポートフォリオ」が作られました。

収録されている曲は、リーノウ&スマイリー、オズボーン・ブラザーズ、マール・ハガード、そしてリーノウ・ブラザーズなど、ロニーがこれまで積み上げてきたキャリアを振り返るといった趣きに加えて、ソングライターとしての彼の存在をアピールした作品なども織り交ぜ、ベテランならではの落ち着いたブルーグラスに仕上げています。このアルバムの1曲目に収録されているのが、リーノウ&スマイリーの名曲「バイブルを道標に」です。父ドンの作曲によるセイクレッド・ナンバーをロニー風にアレンジして歌っています。
Ronnie Reno & The Reno Tradition / Portfolio (Shell Point)

ブルーグラスのファミリー・ゴスペル・グループの第一人者がルイス・ファミリーです。彼らの活動50周年を記念した素晴らしいアルバムの中にもこの曲があります。彼らは特別に歌が上手いわけでもなく、メンバーのリトル・ロイ(bj)以外にはリード楽器もないのに、一度聴いたら頭にこびりつくその強烈なインパクトが特徴のグループです。
The Lewis Family / 50th Anniversary Celebration (Daywind)

クリス・ヒルマンによるデサート・ローズ・バンドがブルーグラスに挑んでいる「エヴァー・コール・レディ」にもこの曲が収録されています。アルバムはクリスとバーニー・レドンが中心となって多くのセイクレッド・ナンバーを聴かせてくれますが、この曲はアカペラ・コーラスからスタートし、アル・パーキンスのドブロが実にタイミングよくブレイクしています。
Chris Hillman & Desert Rose Band / Ever Call Ready (Sugar Hill) (CD化されていません)

全盛を誇っていたカントリー・ジェントルメンからトム・グレイ(bs)、ジョン・ダフィー(m)、エディ・アドコック(bj)が相次いで去った後、代わりにビル・イエイツ(bs)、ジミー・ゴウドロウ(m)、ビル・エマーソン(bj)が加入し、チャーリー・ウォーラーを中心とした第3期黄金時代が始まります。この時代に作られたのが「ワン・ワイド・リヴァー」というジェントルメン初のゴスペル・アルバムでした。この中にも「バイブルを道標に」は収録されています。
The Country Gentlemen / The Early Rebel Recording 1962-1971 (Rebel)

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by scoop8739 | 2005-06-12 16:41 | 不朽の名曲

100 フェアウェル・ブルース

(Farewell Blues)

「ドクター・バンジョー」として知られるピート・ワーニックは、そのニックネーム通りコロムビア大学で社会学の博士号を取得しています。彼はバンジョーの魅力を世界中に広げる伝道師のような存在で、執筆したバンジョー教則本の累計販売冊数は25万部を超え、また数々の教則ビデオも制作しています。

彼は1970年代にニューヨークで結成されたバンド「カントリー・クッキング」でキャリアをスタートさせますが、その後1980年代にはティム・オブライエンらと共に人気グループ「ホット・ライズ」で活躍しました。このバンドはグラミー賞にもノミネートされたことがあります。

a0038167_1595036.jpgその後はブルーグラス・バンジョーのスリー・フィンガー・ロールを、いかにクラリネットやビブラフォンといったリード楽器、さらにベースやスネア・ドラムのリズム楽器、すなわち初期のジャズ・コンボとマッチするかというものを模索します。誰もがイメージとして持つバンジョーやジャズという垣根を、互いに地のままぶつけ合う事でその偏見や不自然さに真っ向から挑んできました。そんな彼のソロ・アルバムに、この「フェアウェル・ブルース」が収録されています。もともとこの曲はディキーランド・ジャズのスタンダード曲だけに、ピートはそのあたりを意識したようでクラリネットのジョー・ルカシックとの絡みが巧くマッチした仕上がりとなっています。
Pete Wernick / On A Roll (Sugar Hill)

クラレンス・ホワイトが20才の時に録音したプライベート・テープをもとに編集されたアルバムにもこの曲が収録されています。録音もホーム・レコーディングとは思えないほど鮮明ですが、クラレンスのフラット・ピッキング・ギターには一音一音に込められたインパクトがたいへん強く感じられます。ちなみにバックでリズム・ギターを弾いているのは ケンタッキー・カーネルズの僚友ロジャー・ブッシュです。
Clarence White / 33 Acoustic Guitar Instrumentals (Sierra)

クラレンス・ホワイトをアイドルとしてブルーグラス・ギターを学んだトニー・ライスが1976年に発表したソロ・アルバムの中にもこの曲が収録されています。J.D.クロウのバンジョーに始まり、兄ラリーのマンドリン、ジェリー・ダグラスのドブロと続いて、いよいよトニーのギター華麗にブレイクします。モダンなサウンドの中にもトラディッショナルな雰囲気が漂う名曲です。ちなみにフィドルはリチャード・グリーンが弾いています。
Tony Rice / Tony Rice (Rounder)

上記のアルバムとほぼ同時期に録音されたのがビル・キースのソロ・アルバムでした。デヴィッド・グリスマン、トニー・ライス、ヴァッサー・クレメンツといった凄腕のプレイヤーがサポートしています。ここでの「フェアウェル・ブルース」はビル・キースがアール・スクラッグスに敬意をはらってか、見事なばかりのスクラッグス・スタイルでの演奏を聴かせてくれます。
Bill Keith / Something Bluegrass (Rounder)

先にも書いた通り「フェアウェル・ブルース」は、「ビューグル・コール・ラグ」同様に、アール・スクラッグスがディキーランド・ジャズのスタンダード曲をブルーグラス・スタイルにアレンジしたものです。ディキーランド・ジャズではこの曲に「別れのブルース」という邦題がついていますが、バンドにこの曲をリクエストすると「淡谷のり子さんにでも歌ってもらいましょう」と一掃されます。(ンなはずないか…!?)
Lester Flatt & Earl Scruggs / The Complete Mercury Sessions (Mercury)

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by scoop8739 | 2005-05-29 15:11 | 不朽の名曲

99 ミッドナイト・フライヤー

(Midnight Flyer)

ブルーグラスやカントリーには汽車をモチーフにした曲が数多くあります。開拓時代の象徴なのでしょうか、カントリー・ロックの時代となっても有名なところではドゥービー・ブラザースの「ロング・トレイン・ランニング」なんかがありますね。ブルース・ハープやギターのシャッフルを使って汽車の躍動感を表していますが、蒸気機関車の出す音には洋の東西を問わず感情移入を促す何かがあるのでしょう。今回の曲はそんな夜汽車を歌ったもので、あのイーグルスがたっぷりとブルーグラスしている曲「ミッドナイト・フライヤー」です。

a0038167_2013473.jpg1972年にデビューしたイーグルスは、一般的にはL.A.のカントリー・ロック・バンドとして受け入れられていますが、そのキャラクターを決定的にしたのがバーニー・レドンの存在でした。彼はL.A.のカントリー・ロック人脈図の頂点にあたるスコッツヴィル・スクワィエル・バーカーズからキャリアがスタートし、ハーツ&フラワーズ、ディラード&クラーク、そしてフライング・ブリトゥ・ブラザースと渡り歩いた後、イーグルス結成当時にはもっとも名の知られた存在でした。つまりバーニーの存在こそが彼らをL.A.カントリー・ロックの「血統書」付きのバンドとしてファンにアピールすることができたのでした。バーニーのバンジョーをフィーチャーした軽快なカントリー・ロック仕立てのこの曲は、イーグルスの3枚目のアルバム「オン・ザ・ボーダー」に収録されています。
Eagles / On The Border (Asylum)

この曲の作者として知られるのは、セルダム・シーンやリンダ・ロンシュタットに曲提供しているポール・クラフトです。イーグルスの演奏では、テンポを早くしてサビの部分の「ウー」を汽笛(警笛)のようにコーラスでアレンジしていますが、ポールは1人で歌っているからでしょうか、その雰囲気は意識していますがテンポを少し落として歌っています。
Paul Craft / Brother Jukebox (Strictly Country)

ボビーとソニーのオズボーン兄弟とマック・ワイズマンというブルーグラス界の大ベテランがガップリ四つに組み、さらにバディ・スパイカーのフィドルが加わって作られた1970年代後半の秀作アルバムが「エッセンシャル・アルバム」です。油の乗切った時期のマックとボビーの歌の巧さを、ソニーとバディが音楽面で見事に支え、2人にはピッタリのスタンダードな有名曲を中心に落ち着いた、しかもハイ・レベルのブルーグラス音楽が堪能できます。ここにもこの曲が収録されています。イーグルスとはひと味違った、いかにもブルーグラスらしい「ミッドナイト・フライヤー」が聴かれます。
Osborne Brothers & Mac Wiseman / Essential Bluegrass (CMH)

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by scoop8739 | 2005-05-26 20:03 | 不朽の名曲

98 エルサレム・リッジ

(Jerusalem Ridge)

ブルーグラス・フィドラーとして常に5本の指に名前が挙がるケニー・ベイカーは、ケンタッキー州東部ジェンキンスの出身で、彼がミュージシャンの道を目指したのは、意外なことにトミー・ドーシーやグレン・ミラーといったスイング・ジャズからでした。第2次世界大戦中、戦地に慰問にやって来たウェスタン・スイング・バンドのボブ・ウィルスやステファン・グラッペリに感化されフィドルを弾くようになりました。

フィドルを覚えるとビル・モンロウのフィドル・インストゥルメンタルに興味を持ち、のちにモンロウのブルー・グラス・ボーイズに加入することとなります。彼のフィドル・プレイは、元々影響を受けていたウェスタン・スイングとジャズを下地に、他のブルーグラス・フィドラーよりも甘く、表情豊かな特有の音色を持っています。彼の加入を機に、ブルー・グラス・ボーイズでは1960年代初頭までバンジョーの陰に隠れがちだったフィドルが再び主役の座を獲得したのでした。

a0038167_1325361.jpg1976年春、彼はそれまでモンロウの下で演奏して来た曲を集大成したソロ・アルバムをリリースします。マンドリンはグループの御大モンロウ自身が担当し、ケニーの軽快なフィドルを中心にボブ・ブラックやヴィック・ジョーダンのバンジョーが絡み、ワルツ、ラグ、ブレイクダウンと、緩やかな音からアップテンポな曲まで、シンプルながら多彩に演奏されます。その中に標題の「エルサレム・リッジ」が収録されています。ケニーのフィドルを中心に、途中でモンロウがマンドリンのブレイクをはさみます。
Kenny Baker / Plays Bill Monroe (County)

この曲はビル・モンロウのオリジナルとされ、フェスティバルなんかでも人気の曲です。モンロウ盤は、先のケニー・ベイカー盤からちょうど1年前にほぼ同じメンバーで録音されています。こちらの録音はどういう訳だかケニーのフィドルばかりで、モンロウによるマンドリンのブレイクが聴かれません。
Bill Monroe / Weary Traveler (MCA)

トニー・ライスはよっぽどこの曲がお気に入りのようで、彼のソロ・アルバムには何度も登場してきます。「エルサレム・リッジ」は次の3枚のアルバムで聴くことができます。その時代時代のトニーのプレイを聴き比べてみませんか?
Tony Rice / Church Street Blues (Sugar Hill)
次のアルバムはトニーの声帯の調子が悪い時期のもので、ドーグなどアコースティック系インスト中心のアルバム構成となっています。トニーの最高傑作アルバムといえるでしょう。
Tony Rice Unit / Unit Of Measure (Rounder)
次のアルバムはブルーグラス・チューンばかりを集めたオール・インストのベスト・セレクションとなっています。才能がありすぎる人は、余りにも多くのことを同時にやりすぎてファンを振り回してしまうことがありますが、トニーの優れた技術、技法を駆使したアルバムには時にその一歩手前のものを感じることがあります。しかしこのアルバムに限って言うと、たっぷりと軽やかでハッピーなトニーのギターを堪能できます。
Tony Rice / Bluegrass Guitar Collection (Rounder)

デヴィッド・グリスマン、ジョン・ハートフォード、マイク・シーガーという3つの個性が並ぶとありきたりのアルバムを作るはずがありません。このアルバムはちょっと古いスタイルを意識した演奏を聴かせてくれます。
Grisman, Hartford & Seeger / Retrograss (Acoustic Disc)

カール・ジャクソンは早くから才能が認められたバンジョー奏者で、さらに加えて優秀なボーカリストです。彼の80年代のソロ・アルバムにもこの曲が収録されています。カールの他には、ドブロにジェリー・ダグラス、マンドリンにマーティー・スチュアート、フィドルにブレイン・スプラウス、ギターはアラン・オブライアン、ベースにジム・ブロックJr.。そんな彼らの作り出すサウンドが悪かろうはずありません。CD化されれば必ず聴いていただきたい1曲です。
Carl Jackson / Song Of The South (Sugar Hill)(CD化されていません)

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by scoop8739 | 2005-05-22 13:32 | 不朽の名曲

97 ターン・ユア・レディオ・オン

(Turn Your Radio On)

a0038167_20322948.gif1971年、ジョン・ハートフォードは古い音楽を愛し演奏しながらも、最も先鋭的なロックとブルーグラスとの融合を少しも無理なく成し遂げました。それは彼がノーマン・ブレイク、タット・テイラー、バッサー・クレメンツ、ランディ・スクラッグスという、その当時もっともプログレッシヴなプレイヤーらと組んで作った「エアロ・プレイン」というアルバムで結実します。このアルバムでは後のニューグラスの雛形と言われるサウンドが聴かれます。

その演奏自体はブルーグラスそのものながら、ビル・モンロウのそれとは明らかに肌触りの違う革新的なものでした。この当時までブルーグラスはかなりきっちりとした様式を持つ音楽だったのですが、そういう中でのハートフォードの存在はいかにも異色の感じがします。録音されたテープはプロデューサーのデヴィッド・ブロンバーグの手によって都会的なセンスによる編集がなされますが、これはヒッピー・ブルーグラスとでも呼べるような奇妙な覚醒感があり、古臭いスタイルに包んだ反逆性、革新性は、今日のブルーグラスと比較しても決して古さを感じさせないものでした。

このアルバムのオープニングとエンディングに使われているのが標題曲の「ターン・ユア・レディオ・オン」です。ビートルズの「サージェント・ペッパーズ」のテーマ曲のような使われ方をしていますが、これによってアルバムのトータル性が強調されています。ちなみにこの曲は1938年にアルバート・E・ブラムリーが作ったゴスペル・ソングで、1972年にレイ・スティーブンスが歌ってメジャー・ヒットしています。
John Hartford / Aereo Plane (Rounder)

クリス・ヒルマンのソロ2作目は、カントリーのカヴァーを中心としたロッキン・カントリーでの演奏となっています。サウンドはクリスが直後に結成するデサート・ローズ・バンドの音楽性の基礎となりました。アルバムのラストを締めくくっているこの曲は、クリスとハーブ・ペダーセンとバーニー・レドンの3人による掛け合いコーラスが楽しい作品に仕上がっています。レドンのバンジョー、クリスのマンドリンも前奏や間奏ではかなり元気の良い演奏を聴かせてくれます。
Chris Hillman & Desert Rose Band / Desert Rose (Sugar Hill)

「マウンテン・デュー」や「トラジック・ロマンス」で有名なヒルビリー歌手のグランパ・ジョーンズもこの歌を歌っていました。1965年の録音です。
Grandpa Jones / Everybodys Grandpa (Box) (Bear Family)

ジャンルは違うのですが、戦前から戦後にかけてアンドリューズ・シスターズに代表される女性ジャズ・コーラスのグループのひとつにダイニング・シスターズがいました。このアルバムでは、アコーディオン、フィドル、ギターらによるシンプルなバックで、カントリー・ナンバーや古いフォーク、軽いタッチのゴスペル・ナンバーなどのキャッチーな楽曲をとてもチャーミングに歌い上げています。50年代初頭のカントリー・スタイルの一連の作品にこそ彼女達の個性や魅力がいっぱい詰まっている感じがします。アルバムのオープニング曲にこの「ターン・ユア・レディオ・オン」が収録されています。
The Dinning Sisters / Back In Country Style (Jasmine)

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by scoop8739 | 2005-05-19 20:40 | 不朽の名曲

96 七面鳥のこぶ

(Turkey Knob)

1960年代のカントリー・ジェントルメンの栄光を支えた一人が、バンジョー奏者のエディ・アドコックであることには疑う余地がありません。彼のあの何とも形容しがたいユニークなバンジョー奏法は、ドン・リーノウの影響とされています。

1950年代半ば、ヴァージニアのローカル・カントリー・バンド、スモーキー・グレイヴスのブルー・スター・ボーイズでバンジョーを弾いていたアドコックは、なかなかスクラッグス・ロールを自分のものにできずにいました。そこでドン・リーノウに教えを受けてリーノウ・スタイルに活路を見出し、スクラッグス・ロールを多用せずにすむ独自のフィンガリングをマスターしたといいます。

その後ワシントンD.C.にやって来た彼は、ビル・ハーレルのロッキー・マウンテン・ボーイズに加わりますが、このバンドはジャズをブルーグラスに適合させ、スウィンギーでジャジーなサウンドを好んで取り上げていた先進的なバンドでした。ここでの経験がエディに、ブルーグラスに対するアプローチを違ったものにする要因になったのだそうです。エディはこの時期、ようやく自らのスタイルを確立し、シンコペーションを強調したそのピッキングはドン・リーノウをベースにチェット・アトキンスやマール・トラヴィスのギャロッピング奏法を加味したものです。

a0038167_120348.jpgジェントルメンに加入後はさらにこのスタイルに磨きがかかり、ジョン・ダフィーのマンドリンの多様な広がりあるスケール奏法やブルーズっぽい単弦演奏とのコンビネーションもうまくマッチして、「ナイト・ウォーク」「サンライズ」「心の痛手」など、インストゥルメンタルの名曲を数多く発表してきました。そんな中でも数多くのプレイヤーに取り上げられ演奏されているのが「七面鳥のこぶ」という曲です。
The Country Gentlemen / The Country Songs - Old And New (Smithsonian Folkways)

ジョン・ヒックマンは、バイロン・バーライン、ダン・クレアリーらと行動をともにするバンジョー奏者です。彼は1969年、南カリフォルニアに移り住んだ後、ダグ・ディラード、クラレンス・ホワイト、ジョン・ハートフォード、カントリー・ガゼットらと親交を結びます。彼のバンジョーは紛れもないクロマティック・スタイルですが、基本的にはドン・リーノウの華やかさ、エディ・アドコックのバック・アップ、ビル・エマーソンのハード・ドライヴィング、ボビー・トンプソンのブルース・フィーリングを併せ持つ素晴らしいプレイヤーなのです。そんな彼のソロ・アルバムにもこの曲が収録されています。
John Hickman / Don’t Mean Maybe (Rounder)

ダグ・ディラードのアルバムの中にもこの曲があります。ここではエディ・アドコックのスタイルではなく、むしろアール・スクラッグスのロールで、しかもそこに彼独自の味付けが加わり演奏されています。ドン・ベックが弾いているドブロが変わったスタイルなのも聴きものです。
Doug Dillard / The Banjo Album (Rural Rhythm)

1970年代後半、リッキー・スキャッグスの率いる「ブーン・クリーク」のメンバー、ウェンズレー・ゴールディングのギター、ジェリー・ダグラスのドブロ、それにリッキーのフィドルのバック・アップを得て、無名のビリー・ペリーなるバンジョー弾きがソロ・アルバムをリリースしています。全体的にウェスタン・スウィング調なのはサイドメンの影響なのでしょうか?
Billy Perry / More Bluegrass Jam (KBA Records) (CD化されていません)

城田じゅんじがナターシャ・セブン時代にリリースしたソロ・アルバムにもこの曲が収録されています。彼にとってエディ・アドコックは学生バンド時代からのアイドルでした。城田はエディのプレイに忠実に演奏しています。マンドリンの坂庭省吾がこれまたジョン・ダフィーそっくりの演奏を聴かせてくれます。
城田じゅんじ / Soft Shoes (東芝EMI) (CD化されていません)

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by scoop8739 | 2005-05-15 12:06 | 不朽の名曲

95 ヴィクティム・トゥ・ザ・トゥーム

(Victim To The Tomb)

デヴィッド・グリスマン、ピーター・ローワン、ヴァッサー・クレメンツ、ジェリー・ガルシア、ジョン・カーンからなる「オールド&イン・ザ・ウェイ」は、70年代前半にサンフランシスコで活躍した幻のセッション・バンドでした。

a0038167_217457.jpgそんな彼らが約30年ぶりに集まって作ったのが「オールド&イン・ザ・グレイ」です。タイトルの意味は、白髪混じりとなった彼らの現在の容貌を洒落たものだそうです。故人となったガルシアに替わってバンジョーにハーブ・ペダースン、ベースのカーンに替わってブライン・ブライトとメンバーに若干の交替がありますが、ほとんど昔のメンバーで新録音に挑んでいます。

このCDには、グリスマン、ローワン、クレメンツを中心にした彼らのブルーグラスに対する熱き想いが込められていて、ビル・モンロウ、スタンレー、カーター・ファミリー、ドン・リーノウ、ルーヴィン・ブラザーズといった先人たちの作品に加えて、亡くなった同世代のプレイヤーの作品も取り上げ、極上のブルーグラス・サウンドを提供してくれています。「ヴィクティム・トゥ・ザ・トゥーム」はカントリー・ジェントルメンのオリジナル・メンバー、ジョン・ダフィーの数少ないオリジナル曲のひとつでした。
Old & In the Gray / Old & In the Gray (Acoustic Disc)

ニューグラスの寵児サム・ブッシュをして「ニューグラスの父」と言わしめたジョン・ダフィーは、1960年代に大活躍したモダン・ブルーグラスの急先鋒「カントリー・ジェントルメン」を率い、1970年代になるとニューグラス時代の中心的バンド「セルダム・シーン」のリーダーとして常に時代を牽引してきた革新的な巨人のひとりでした。この曲は彼がジェントルメン時代に作ったものですが、父親の死に対する哀惜の念をうまく表現している名曲です。
The Country Gentlemen / Folk Songs & Bluegrass (Smithsonian Folkways)

カントリー・ジェントルメンとは同じレーベルなのですが、バンジョー奏者ピート・カイケンダル繋がりで交流がありそうでなかったのがレッド・アレンでした。彼の独特のハスキーなボーカルは、テナーに廻ったときにより「ハイ・ロンサム」なムードを漂わせました。長年のパートナーであったマンドリンの奇才フランク・ウェイクフィールドとのデュエットを多く含んでいるものがフォークウェイズに残されています。この中にもダフィーの名曲が収録されています。
Red Allen / The Folkways Years 1964-1983 (Smithsonian Folkways)

ボストン、ニュー・イングランドのブルーグラス・シーンで、カントリー・ジェントルメンに続けとばかりにデビューしたのがチャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズでした。彼らは、ボストンとはチャールズ川をはさんだ向かいの学園都市ケンブリッジで、ハーバード大学の学生バンドからスタートし、ヒルビリー・テイストのアーリー・ブルーグラスを中心に、トロピカル・ソングやカントリー・ヒットなどもとりあげていました。オールドタイム・ストリング・バンド・スタイルも大きく採り入れて、とても都会の若者たちとは思えない泥臭い演奏を聴かせています。そんな彼らがジェントルメンのこの曲をもレパートリーに加えていました。
The Charles River Valley Boys / Bluegrass And Old Timey Music (Prestige)

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by scoop8739 | 2005-05-14 21:10 | 不朽の名曲