レスターとアールの人気は1950年代の中頃までにはアメリカ東南部の隅々まで行き渡り、この地方すべてのラジオ局で取り上げられるほどになっていました。彼らの名声と人気はテネシー州の大きな製粉会社まで聞き及び、このマーサ・ホワイト社は彼らをナッシュビルに呼んで新しくラジオ番組をスタートさせ、カントリー歌手ならみんなが憧れる「グランド・オール・オープリー」の舞台に立たせたのです。こうして彼らが何よりも不安だった経済的な心配の一切をマーサ・ホワイト社が解消してくれたので、ますます演奏活動に没頭することができました。
1948年の結成以来、フォギー・マウンテン・ボーイズの看板となっていたハードなブルーグラス・サウンドは、マーサ・ホワイト社というスポンサーの出現で起きた経済的な余裕と相まって、50年代中頃にドブロ奏者バック・グレイヴスが参加したことによって徐々にソフィスティケイトされたサウンドへと変貌していきます。こうした緩く心地よいサウンドは、パワフルでもソウルフルでもなく、ハードでハイロンサムなブルーグラス・サウンドを求めるファンに一抹の淋しさを与えますが、結果的に彼らの変化は功を奏することになるのです。 それは南部のマーケットに「ロカビリー」がもたらされた時に具現化しました。ロカビリー音楽の流行は、伝統的性格を持つ音楽のすべてをアンダーグラウンドに追いやります。もちろんブルーグラス音楽も例外ではありませんでした。そんな中、マーサ・ホワイト社のバック・アップを得て経済的余裕のできたレスターとアールは、ソフィスティケイトされたカントリー音楽への接近を試み、そしてごく自然にカントリーの世界に溶け込んで人気を持続させたのでした。 彼らの成功は他のグループにも同じ道を歩ませることになりました。しかしそのほとんどは経済面での持続力を持たずに、ますます苦境に追い込まれていったのです。1955年から60年までのグルーグラス音楽はずっとモダンになったとはいえ、その主導権はレスターとアールによって握られ、さすがのビル・モンローやスタンレー・ブラザーズでさえ2人の後塵を拝するばかりでした。 ブルーグラス音楽にとって、この暗黒の時代は1950年代が終わろうとする頃になってやっと明るい兆しが見えてきます。キングストン・トリオの出現によってブルーグラス音楽は伝統的音楽のひとつのスタイルとして認識され、北部や西部の大学、さらにコーヒー・ハウスに生息地を見いだし始めます。 レスターとアールを筆頭に先見のあるバンドはフォーク・ミュージックのマーケットへ進出します。ここでも彼らはフォーク・グループとして比類のない成功を収め、ブルーグラス音楽のポピュラー化に計り知れない貢献を果たします。 さて、レスターとアールの全盛期を代表するアルバムを2枚紹介致します。まず1枚目は「フォギー・マウンテン・ジャンボリー」という、フォギー・マウンテン・ボーイズの数あるアルバムの中でもとくに素晴らしいと評されるスタジオ録音されたものです。何とも言えず心に滲みるレスターのボーカル、軽やかで躍動感のあるアールのバンジョー、そのほかフィドル、ドブロ、ベースのプレイのどれを取っても筆舌に尽くしがたいものを感じます。このアルバムにもブルーグラス音楽のスタンダードとなった曲が多数収められています。ブルーグラス初心者ならもちろんのこと、ディープなファンなら必ず手元においておきたい超名盤です。 FOGGY MOUNTAIN JAMBOREE (COUNTY) 1. Flint Hill Special 2. Some Old Day 3. Earl's Breakdown 4. Jimmie Brown, the Newsboy 5. Foggy Mountain Special 6. It Won't Be Long 7. Shuckin' the Corn 8. Blue Ridge Cabin Home 9. Randy Lynn Rag 10. Your Love Is Like a Flower 11. Foggy Mountain Chimes 12. Reunion in Heaven 2枚目はアールのバンジョーをフィーチャーした「フォギー・マウンテン・バンジョー」です。25分間というあまりに短い総収録時間にもかかわらず、この1961年の画期的作品は、今もって史上もっとも重要で影響力のあるアルバムと言われています。フォーク・ブーム真っ盛りに登場したこれら12のインスト曲に触発されて5弦のバンジョーを手に取り、アールの華麗なスリー・フィンガー奏法を真似ようとしたカレッジの若者は数知れないことでしょう。ポール・ウォーレンのフィドルとジョッシュ・グレイヴスのドブロは、ブルーグラス・バンジョーの礎を築いたアールとぴったり歩調を合わせています。フラット&スクラッグスのコレクションとしては、もっと決定的かつ総括的ものが他にありますが、本作はこれからも永遠の人気アルバムであり続けることでしょう。 FOGGY MOUNTAIN BANJO (COUNTY) 1. Ground Speed 2. Home Sweet Home 3. Sally Ann 4. Little Darlin' Pal of Mine 5. Reuben 6. Cripple Creek 7. Lonesome Road Blues 8. John Henry 9. Fireball Mail 10. Sally Goodin' 11. Bugle Call Rag 12. Cumberland Gap (次回につづく) 人気blogランキングへ
by scoop8739
| 2004-08-03 09:30
| ブルーグラスの歴史
|
カテゴリ
全体 序文 プロローグ ブルーグラスの歴史 演奏スタイル Who's Who 不朽の名曲 名盤探訪 泡沫アルバム探訪 際ものアルバム 同時代の音楽 バンドの歴史 カントリー・ジェントルメン セルダム・シーン カントリー・ガゼット ニューグラスへの道 ビートルズ・ソング ベンチャーズ・ソング ディラン・ソング クリスマス・ソング 月をタイトルにした歌 「and」の曲 「from」の曲 「LOVE」の曲 「GOLD」の曲 TRAIN SONGS 牛を歌った曲 異ジャンル交流 とんこつラーメン論 ブレイク・タイム エッセイ エッセイ 以前の記事
2024年 02月 2024年 01月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 10月 2004年 09月 2004年 08月 2004年 07月 フォロー中のブログ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||