08 まず、どのプレイヤーから聴けばいいのか?

ここまで読んで下さってお気づきのように、ブルーグラス音楽の近況やポップス・アレンジされたものの数々をご紹介してまいりました。しかしこれに飽き足らず、ブルーグラス音楽をもっと詳しく知りたいと思われている方、さらには、とりあえず「まずは、どのプレイヤー、どのグループから聴けばいいのか」と切望されておられる方に、これからは簡単ながらプレイヤーの紹介をしてみたいと思います。ブルーグラス音楽に限らず、どのプレイヤーから聴き始めるかで、そのジャンルを知るのにはずいぶんと印象が違ってくるものです。

古い話で申し訳ありませんが、ぼくがブルーグラスというものを知ったのは大学生の時です。ふつうこの手の音楽に初めて出会うのは、ライヴなんかで実際に演奏しているのを見かけたという場合が多いのですが、ぼくの場合はたまたま点けていたFMラジオから流れてきた番組を聴いたのがファースト・コンタクトでした。とっさにエア・チェックしてもう一度ゆっくりと聴き直してみると、不思議といい感じがするではありませんか。つまり自分にあった音楽であったということですね。その時、カセット・テープに収められていたのがビル・モンローの「雪の上の足跡」(Footprint in the Snow)、フラット&スクラッグスの「恋人の腕に抱かれて」(Roll in My Sweet Baby’s Arms)、スタンレー・ブラザーズの「オールド・ラトラー」(Old Rattler)あたりの曲で、中にはグランパ・ジョーンズの「マウンテン・デュー」なんかも混じっていたようです。

毎日このカセットを聴いているうちに病嵩じて、ついにぼくは友人にこの音楽のことを知っているのか聞いて廻りました。ところが誰もそんな音楽なんて知らないと言うのです。当時、ぼくは東京の大学に通っていたのですが、その頃はブルーグラス研究会活動が盛んな時代でしたので都心の大学だったならきっとどこかで遭遇していたはずなのでしょうが、残念ながらぼくの通う大学は郊外にあり、しかもブルーグラス研究会などは存在しませんでした。ですから誰も知らないはずで、しばらくはカセット・テープ頼りの日々が続きます。

人に聞いても知らないと言うのであれば自分で調べるしかありません。しかしいくら調べようにもインターネットで情報収集するような手段のない時代ですからなかなか見つけようもありません。そこでぼくは、レコード店に行けば何か手がかりがつかめるのではないだろうかと思い、さっそく最寄りのレコード店に行ってみました。ところがどうして、店員さんが首をかしげる程ですから、この手のレコードなど置いているはずもありません。いよいよ都心まで出かけてのレコード探しが始まります。

ありました、さすがに都心のレコード屋さんです。しかしこの当時のレコード屋さんに置かれていたのは、せいぜい当時良く売れていたカントリー・ジェントルメンかフラット&スクラッグスくらいなものです。ぼくは財布の中身と相談しながら、初めて聞く名前のビル・クリフトンやらカントリー・ジェントルメンを敬遠して、とりあえずカセットでお馴染みとなっていたフラット&スクラッグスのLPを買って帰ることにしました。たしか2枚組のマーキュリー盤でしたね。

アパートに戻ると一気にこのLPを聴いてみました。カセットで聴き覚えた「恋人の腕に抱かれて」もあります。さらには映画で耳にしたことのある「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」もあります。これだけで2ヶ月は持ちました。しかし3ヶ月目を迎える頃にはさすがのフラット&スクラッグスでさえ、ぼくの欲求を満たしてはくれません。そうこうするうちにジャズ通の友人が輸入盤専門店でブルーグラスのLPを見つけたと教えてくれたのです。いよいよぼくの輸入盤専門店通いが始まります。こうなってしまうと底なし沼に足を踏み入れた仔鹿のようなものです。財布に余裕のある限り、とは言え学生の持つお金なんてたかが知れていますから、せいぜい月に2.3枚程度ですが、見つけるレコードは片っ端から買い集めていきました。時には仕送り前なのにまるっきりお金がなくなってしまうことさえも起こりますが、同病相憐れむの喩えもあるように、友人の暖かい援助を受けながら仕送りが届くまでの間を食いつないでまいりました。

話が脱線しましたが、僕の場合、最初に買ったLPがレスター・フラット&アール・スクラッグスという幸いな出会い、なけなしのお金で慎重な買い方をしたこと、さらには日本盤に付き物のライナー・ノーツを道標として間違ったブルーグラス道を歩まずに済みました。ブルーグラス音楽を末永く愉しんでいただくためには、自分に合うアーティスト、CDとの出会いが大切です。

さて、次回からは古今のブルーグラス・アーティストの、しかも現時点で入手可能なCDを紹介してまいります。定石ではありますが年代順に話を進め、同時にブルーグラスの歴史もわかるようにしてみました。この流れの中で少しでも気になるプレイヤーとその作品に出会いましたらブック・マークしておいて下さい。

どのプレイヤーを聴けばいいのか迷った時、名盤といわれるCDの購入を考える際に道標として利用していただければ筆者冥利に尽きます。ドン・リーノウとレッド・スマイリーの歌った「バイブルを道標に」(Using My Bible for the Road Map)という名曲があります。入門リスナーにとりまして、このHPが「ブルーグラス入門のバイブル」になれるといいのですが…。
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-07-27 14:03
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