フォークウェイズへの録音 (11)発売保留となったマーキュリー社へのアルバム「ナッシュヴィルの監獄」(Nashville Jail)のレコーディングからほどなくして、レベル社のフリーランド社長からアルバム制作の話が持ちかけられます。彼らはレコーディング場所をニューヨーク州にあるシラキュース大学内の「レコーディング研究所」と決め、そこで短期合宿に入ります。 この間に、大学の傍にあったライヴハウスでも演奏をしています。その模様を、大学内にあるレコード店で働く若者がテープに残していました。後に聴いてみると、この出来があまりに良かったため、彼らはフォークウェイズ社に持ち込んでレコード化を奨めます。レコーディングされた場所は「ザ・フォーク・ギャラリー」、1964年11月1日のことでした。 録音されたものはしばらく発表されず、これもまたお蔵入りか?と思われたのですが、どういう訳か1967年4月に「イン・コンサート」と題されて、当時ジェントルメン人気に沸いていた日本だけで発売されます。後に本国アメリカで発売されたアルバム名は「ゴーイング・バック・トゥ・ザ・ブルー・リッジ・マウンテンズ」(Going Back To The Blue Ridge Mountains)でした。 ただし、邦盤「イン・コンサート」と「ゴーイン・バック〜」(長いので省略)とは曲順が違います。これまた米盤を正式な盤として採用させていただきます。 さらに、録音したテープがベース音を上手く捕えることができなかったため、永くベーシスト不在のライヴと言われていましたが、どうやらエド・フェリスが弾いていることが判明したようです。 それでは(発売当時のLPに合わせて)A面から説明しましょう。 非ブルーグラス的なマンドリンのイントロから始まる1曲目はタイトル曲「ブルーリッジの山々」(Going Back To The Blue Ridge Mountains)です。デルモア・ブラザーズによって歌われていた曲で、作者はアルトン・デルモア(ペンネームはジム・スコット)です。デルモア・ブラザーズ同様、数多くの「兄弟デュエット」によって歌われもしています。なおこの曲は、悪女と別れて故郷のブルーリッジの山々に帰る決意をする男の歌です。ドライヴのかかった豪快なナンバーで、以前録音していた「青い鳥が呼んでいる」(Bluebirds Are Singing For Me)に曲趣が似ています。チャーリーのヴォーカルが力強くて気持ちいいですネ。 2曲目「ゴーイング・トゥ・ザ・レイセズ」(Going To The Races)は、ジェントルメンにとっては記念すベきデビュー・シングルとして録音していた曲です。1930年代中頃にJ.E.メイナーとマウンテニアーズがヒットさせていたもので、1958年にはスタンレー・ブラザーズが「街を塗りつぶせ」(Gonna Paint The Town)と書き替え歌っています。歌は、「競馬に行って儲けがあったら楽しもうゼ」という他愛もない内容です。この辺り、ハリウッドのミュージカル映画の主題歌「私を野球に連れてって」(Take Me Out To The Ball Game)を意識しての作品なのか、どうなのか? ジョンによって、競馬レースを彷彿させるような曲調で歌われます。 3曲目の「ブルー・ベル」は、前録音作(この時点ではお蔵入り中)の「アズロ・カンパーナ」(Azzorro Campana)と題名違いの同一曲です。カントリー界の偉大な歌手で、名ギタリストでもあったマール・トラヴィスが1940年代後期にこの曲を録音し、さらに1960年にはアルバム「ウォーキング・ザ・ストリング」(Walking The String)に収録しています。ちなみに「ブルー・ベル」というのは鐘形の花を咲かせる草の一種だそうです。 4曲目「暗い炭坑の中で」(Dark As A Dungeon)では、ジョンが「近年、フォーク・ミュ―ジック界ではポピュラーになってきた曲」と紹介していますが、説明の言葉通り「炭坑夫の哀歌」です。この曲もまた1946年に、マール・トラヴィスによって書かれ歌われていて、チャーリーはマールに敬意を表して編曲せずに歌っています。ちなみに今回のクレジットでは作者がウィリアム・ヨークとなっていて、これはスターディ社の社長ドン・ピアス氏のペンネームです。 今回はここまでにして、続きは次回で。
by scoop8739
| 2017-08-09 10:58
| カントリー・ジェントルメン
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