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46 ニューヨークの才能集団

46 ニューヨークの才能集団_a0038167_9381645.jpgニューグラスの嵐が吹き荒れる1970年代前半、大都会ニューヨークからさらなるニューグラス・バンドが登場します。彼らはこともあろうにブルーグラスにサキソフォンやシンセサイザーを持ち込んでジャズっぽい演奏を聴かせました。バンドの名は「カントリー・クッキング」といい、これまでにブルーグラス音楽が経験しなかったユニークなサウンドを生みだす才能あふれる集団でした。

つまり、そのロケーションとしてのニューヨークは様々な種類の音楽が満ちあふれていて、それを吸収して育った若者がブルーグラスというフィルターを通して創るサウンドは、南部のそれとはずいぶんと違った形であるということです。とくに彼らはジャズを意識的に強調し、ブルーグラスのカテゴリーから外れないところで自由に発想し、かつ思考してサウンドを創造していたのです。

ギターのラス・バレンバーグは、多分に漏れずドック・ワトソンやクラレンス・ホワイト、ダン・クレアリーを模してキャリアをスタートさせますが、彼の弾くギターは生ギターの持つ美しさを繊細に表現し、かつ大胆にリズムを刻んでいます。マンドリンとサキソフォンを操るアンディ・スタットマンは「知る人ぞ知る」マンドリンの名手です。それまでマンドリンでは使われなかったようなジャズのスケールを用いて面白いサウンドを創造します。またデヴィッド・グリスマンを思わせるようなフレーズも随所に表現して楽しませてくれます。フィドルのケニー・コセックはセッション・マンとして活躍していますが、リチャード・グリーンの影響下にあるそのプレイは、聴く者を気持ちよくも不安定な気分にもさせてくれる不思議な魅力を持っています。

さてこのバンドにはバンジョー奏者が二人いて曲によってはダブル・バンジョーを聴かせてくれます。一人は右指のロールが実にユニークなトニー・トリシュカですが、彼はビル・キース
をとても敬愛していて随所にそれらしいフレーズが聴かれます。また非ブルーグラス的な発想での曲作りは彼らのサウンドにユニークさをもたらしているのです。もう一人のバンジョー奏者はピーター・ワーニックといい、トニーのそれよりはずっとノーマルなものです。彼はバンジョー教則本の著者としても有名です。

ベーシストのジョン・ミラーはラグタイム・ブルースのギタリストとしても名を成していますが、このバンドでベースを始めたそうです。紅一点のボーカリストは名前をナンディー・レオナルドといい、ステージではホンキートンク風のボーカルを聴かせてくれます。

彼らのバンドとしての2枚目のアルバム(その前に違ったメンバーを含むインスト・アルバムを発表しています)である「バレル・オブ・ファン」は、そのタイトルの通り楽しさがいっぱい詰まった内容です。それは彼らが自由に音を遊んでいるのがジャケットの写真からも伺い知れます。

BARREL OF FUN(ROUNDER)
Side A
1. U.S.40
2. Paul Revere's Ride
3. The Parson's Duck
4. Wagon Ho
5. Tequila Mockingbird
6. Lonesome Song
7. Big River
Side B
1. Barrel Of Fun
2. Morning Glory
3. November Cotillion
4. Colorado Bound
5. Six Mile Creek
6. Plumber's Nightmare
7. Kentucky Bullfight
8. Noodles

A面1曲目からアンディのサキソフォンが登場します。これに度肝を抜かれていたのでは彼らのサウンドをじっくりと楽しめません。トニー・トリシュカの作である2、3曲目の美しいメロディーを体験するとブルーグラス音楽の可能性が見えてきます。4曲目も完全なるブルーグラスですが、各楽器の美しい演奏は彼らが只者ではないことの証明です。

アンディの縦横無尽に駆け巡るようなマンドリンが素晴らしい5曲目はピーター作です。ツイン・バンジョーがぴったりと決まっています。6曲目はナンディーのジャグ風ボーカルですが、どこかマリア・マルダーのようですね。7曲目ではカントリー・タッチのボーカルとラスのブルージーなギター、そしてジャジーなサキソフォンが聴かれます。8曲目はアルバムのタイトルにもなっています。典型的なブルーグラスのパターンを踏んでいて、各楽器の演奏の素晴らしさを十分に味わえます。B面1、2、4、5曲の美しい曲を見事にのびのびと演奏しています。3曲目はピーター作の何故か懐かしい雰囲気を持つカントリー・タッチの曲です。

6曲目はブルース・コードを基にしたアドリブ曲だと思われますが、まるでジャズのように弾きまくっています。7曲目はまたまたサキソフォンのイントロとなる妙にエキゾチックなナンバーです。最後を飾るに相応しい(?)曲は、彼らのサウンド志向がよくわかるものです。なんとこの曲では非ブルーグラスの最たる楽器であるムーグ・シンセサイザーが使用されています。

倉庫からレコードを取り出して、曲解説を書くため何度も何度も繰り返し聴いていますが、なかなか味のあるいいアルバムですよ、って言うじゃな〜〜い?
でもあんた、このレコードはCD化されていないんですから…。残念!
ラウンダー・レコード、売れそうもないレコードもCD化すべし斬り!
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-09-30 09:37 | ブルーグラスの歴史
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