1973年7月19日の深夜、ブルーグラス・ギターの名手クラレンス・ホワイトがフロリダのナイト・クラブの駐車場で、飲酒運転の車にはねられて亡くなりました。享年29才、ブルーグラス・ファンにとっては何ともやるせない出来事でした。
彼は1944年6月6日メーン州マダワスカの生まれで、1950年代の半ばにはエリックとローランドの兄たちと一緒にスリー・リトル・カントリー・ボーイズを結成し、ロサンゼルスのクラブを中心に活動していました。1960年になると新たなメンバーを加えて伝説のブルーグラス・バンド「ケンタッキー・カーネルズ」を結成します。1964年に発売されたアルバム「アパラチアン・スウィング!」(Appalachian Swing !)で聴かせるクラレンスのフラット・ピッキング・スタイルのギター演奏は、それだけでブルーグラス界最高のギタリストとして君臨することになります。 その後1962年にバンドを離れ、リンダ・ロンシュタットやランディ・ニューマンのレコーディングに参加した後、1968年にジーン・パースンズとナッシュビル・ウェストに加わります。このバンドがこれまた「幻」とも「伝説」と呼ばれるものですが、メンバーにはジーン・パースンズを始めフライング・ブリトー・ブラザーズのメンバーとなるギブ・ギルボー、そして一時期スニーキー・ピートもいたといわれています。 このナッシュヴィル・ウエスト時代こそクラレンスがセッション活動を単独に、あるいはバンドで大活躍していた時期でもあったのです。クレジットされていないセッションが膨大にあるといわれていますが、バーズがナッシュヴィル・ウエストのライヴを見学にきていたといわれるほど、クラレンスの実力は噂に違わず凄かったようです。そうするとナッシュヴィル・ウエストこそカントリー・ロックの実力ある先駆けバンドだったということですね。 11月に彼はここを脱退し、ジーン・パースンズと一緒にバーズに加わったのです。当時のバーズはライヴができないバンドとしてファンの間では暗黙の了解事項となっていましたが、クラレンスが加わったことで最強のライヴ・バンドに変身します。つまりクラレンスこそバーズを生まれ返らせた立役者でもあるのです。またバーズ在籍中にはジーン・パーソンズと共に愛用のテレキャスターを改造し、スティール・ギターのようなサウンドが創れるストリング・ベンダー(正式にはセカンド・ストリング・ショルダーストラップ・ベンダーという独自のチョーキング装置)なるものを生み出します。余談になりますが、レッド・ツェッペリンのギタリストとして有名なジミー・ペイジはこのストリング・ベンダーの愛用者ですが、彼をして「ジミ・ヘンドリックスと並ぶアメリカの2大ギタリストだ」と言わしめたのがこのクラレンスです。そんな彼は今でも「マスター・オブ・テレキャスター」と呼ばれています。 1973年、バーズが解散した後は再び兄エリックやローランドとケンタッキー・カーネルズを編成しながらも、セッション・ミュージシャンとして伝説の「ミュールスキナー」に参加し、そのギター・テクニックを余すところなく披露してくれました。(この章は佐々木実さん作成のHPから一部抜粋使用させていただいております。 http://www02.so-net.ne.jp/~m-sasaki/cwhite.html) Tuff and Stringy Sessions 1966-68 (Ace) 1. Hong Kong Hillbilly / Nashville West 2. Mother-In-Law 3. Make Up Your Mind 4. Grandma Funderbunk's Music Box 5. Guitar Pickin' Man 6. Vaccination for the Blues 7. Don't Pity Me 8. Gotta Go See the World 9. Everybody Has One But You 10. She's Gone 11. Tuff and Stringy 12. I'm Tied Down to You 13. Hey Juliana 14. Last Date 15. I'll Live Today 16. Not Enough of Me to Go Round 17. Riff-Raff 18. If We Could Read 19. Rocks in My Head 20. Made of Stone 21. Buckaroo 22. Adam and Eve 23. Why Can't We Be 24. Nature's Child 25. Tango for a Sad Mood 26. If We Could Read このCDは29歳の若さで亡くなったクラレンス・ホワイトという希有のミュージシャンがザ・バーズに正式加入する直前の22才から24才までの約3年間に残した貴重なレコーディング・セッションです。ここでは後にザ・バーズでのレコーディングで使用するストリングベンダー・ギターはまだ完成しておらず、このCDに収録されたエレクトリック・ギターは普通のテレキャスターと思われます。それにもかかわらずここで聴ける彼の演奏はストリング・ベンダーを駆使したかのような素晴しいリックスやフレーズが随所に登場します。これは言い換えればクラレンス独特のギター・フレーズはストリング・ベンダーという便利なものが発明されたからこそ初めて可能になったのではなく、既にそれ以前にクラレンスの頭の中でほぼ完成されていて自在にプレイできていたということがこのCDで確認できるのです。 ケンタッキー・カーネルズによる「Everybody Has One But You」や「Made Of Stone」はマンドリンの名手でもある兄のローランド・ホワイトとのデュエットで聴けますが、リード・パートを歌う若きクラレンスの雰囲気たっぷりの少し鼻にかかったロンサムなボーカルは、その後にザ・バーズで「Bugler」や「Jamaica Say You Will」といった永遠の名曲を残すことになる彼を予感させてくれます。また多くのトラックではクラレンスを擁したナッシュヴィル・ウェストの他のメンバーも参加しており、ジーン・パースンズと思われるハーモニカやバンジョーがフィーチャーされた曲も含まれています。 クラレンスが亡くなって30年以上が経ちますが、いまだにクラレンスを追い求める音楽ファン、ギター・ファンは絶えません。日本では今一つ知名度が低いようですが、この機会にクラレンス・ホワイトと彼がかかわったミュージシャン達のウエストコースト・ロックに触れて頂きたいものです。 (次回につづく) 人気blogランキングへ
by scoop8739
| 2004-09-27 09:23
| ブルーグラスの歴史
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