42 偶然生まれた夢のセッション、ミュール・スキナー

a0038167_10225031.gif1973年、ビル・モンローがロサンゼルスのテレビ局KCETでのショー出演のためにツアー・バスで向かっているところ事故に遭遇し、ショーそのものが不可能になるという危機を迎えます。その穴を埋めるためにテレビ局はロス在住のブルーグラス・ミュージシャンに連絡を取り、急遽セッション・バンドを組み立てて番組を作ることとなりました。

ここで呼ばれたのが、リチャード・グリーン、ピーター・ローワン、ビル・キースというモンローゆかりの人たちを中心に、モンロー・フリークで有名なデヴィッド・グリスマン、バーズ解散後フリーとなっていたクラレンス・ホワイトという、その当時ロックをやっていたミュージシャンばかりでした。

リチャードは1964年にモンローのもとを離れるとブルーグラス以外の音楽に目を向けペダル・スチールを弾いているジム・クェスキンのジャグ・バンドに移ります。また同時にデヴィッド・グリスマンらとイヴン・ダズン・ジャグ・バンドを組んだり、ビル・キースらとセッション・バンドのブルー・ベルヴェット・バンドにも参加していました。

ピーターはリチャードと同じ頃にニューヨークを中心にモンローのもとを離れ、デヴィッド・グリスマンらとソフト・ロック・グループのアース・オペラを組み、リチャードとともにブルース・プロジェクトからシー・トレインというバンドを作っては壊すといったことをやっていました。

ビル・キースはいまさら言うまでもなく、バンジョー奏法ではアール・スクラッグスのパターンを基本に発展させたキース・スタイルを創り出したことで有名なプレイヤーですが、彼は1963年にモンローのもとを去った後はリチャードらとジム・クェスキンのジャグ・バンドや、同じ頃にブルー・ベルヴェット・バンドに参加したり、マリア・マルダーのマッド・エイカーズといったバンドにも参加しています。

デヴィッド・グリスマンはビル・モンローとフランク・ウェイクフィールドを崇敬し彼らの演奏を吸収しているマンドリン奏者です。また彼は音楽プロデュースの才能を持ち、ロサンゼルスではグレイトフル・デッドやローワン・ブラザーズを手掛けています。

クラレンス・ホワイトについてはこれまでに多くを書いてきましたので割愛させていただくとして、こうして集結したメンバーを見ると彼らが単なるブルーグラス音楽を演奏すると言うのがおかしな話であるということは火を見るより明らかです。

Muleskinner (DBK Works )
1. Muleskinner Blues
2. Blue And Lonesome
3. Footprints In The Snow
4. Dark Hollow
5. Whitehouse Blues
6. Opus 57 In G Minor
7. Runways Of The moon
8. Roanoke
9. Rain And Snow
10. Soldier's Joy
11. Blue Mule

アルバムのタイトルでありオ−プニング曲である「ミュールスキナー・ブルース」はショー出演を断念せざるを得なかったモンローのオマージュとして演奏されます。この曲では何といきなりクラレンスのテレキャスターの「テケケケケケ〜」という堅いエレキ音から始まり、「エッ!」と驚く暇もなく直後の5小節目、めったに聴くことのない「エレキ・ギターのGラン」をきっかけに全員が一斉に飛び込んできます。さらにピーターがヨーデルなのだかシャウトなのだがよくわからない翔ぶような唱法でガンガン歌ってきます。追い打ちをかけるかのようにリチャードが自信と勢いとアイデアに満ち溢れたフレーズを連発します。こんなフィドル弾きがいるとバンドもさぞかしスリリングだろうなと思えてきます。

それにつけても圧倒されるのがクラレンスのギターです。3分余りに渡って延々と弾き続けるバッキングは、時折4th、7th、9thといった音を織り交ぜるだけなのにまったくタイミングが良すぎます。このように、彼らは1曲目からやりたい放題で大騒ぎした挙げ句にフェイド・アウトという非ブルーグラス的手法で去って行きます。さすが異業種交流を繰り返したミュージシャンの演奏するブルーグラスは1曲目から驚かせてくれます。

2曲目「ブルー・アンド・ロンサム」はカントリー調ミディアム・テンポのブルーグラスを演奏します。これでやっと平常心を取り戻せそうです。と思いきや、ここでもリチャードは先ほどの興奮状態から脱していないのか1曲目に続いて変わったフレーズを連発します。ちょうど高速道路のインターを降りて一般道路に入ったのにスピード感が麻痺して100kmくらいのスピードで走ってしまう状態、それが彼なのですね。

彼の状態に不安を覚えたのか、他の4人はこの後「フットプリント・イン・ザ・スノウ」、「ダーク・ホロウ」、「ホワイトハウス・ブルース」と計3曲の普通のブルーグラスを連続して演奏することで治療を試みます。その甲斐あってどうやらリチャードの興奮状態も治まった模様です。

ところがようやく1人が治まったと思ったら、今度はグリスマン氏が自ら開発した「ドーグ」(Dawg)なるジャンルの曲を持ち込んで、既にそのイントロをシャカシャカと奏で始めているではありませんか。幸いなことにここで単弦奏法の得意なビル・キースの賛同が得られたのか無事「Gマイナー作品57」が始まります。思えば後年、トニー・ライスによってその多くが弾かれることになるドーグ音楽をクラレンスが演奏している貴重な1曲です。それにしても何だか軽々と弾いている感がありますね。

続く「ランウェイズ・オブ・ザ・ムーン」、「ロアノーク」、「レイン・アンド・スノウ」を無難に過ごすと、クラレンスの弾く「ソルジャーズ・ジョイ」が鳴り響きます。そして最後に「ブルー・ミュール」で締めくくられるのです。この曲はこれまでの10曲に比べて大変まとまりが良く、あらかじめ整理された役割分担の中で一人一人が抜群のパフォーマンスをやってくれます。特にリチャードのプレイは印象的で、エレキ・バイオリンを駆使し「通奏低音」ならぬ「通奏高音」のようなプレイをベースに、曲をドラマチックに展開させて行きます。
またクラレンスさんの16小節のソロは切り込んでくるタイミングが素晴らしい上に、生前彼が弾いていたフレーズを散りばめていて、この演奏の数ヶ月後に亡くなってしまうことを考えると何か感慨深いものがあります。

この曲は終盤、まるで1曲目「ミュールスキナー・ブルース」を再現しているかのように全員が思い思いに弾きまくってフェイド・アウトして終わります。ああ興奮、またまた興奮。しかし興奮冷めあらぬ彼らはさらなる企画を立ち上げるのでした。
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-09-24 09:41 | ブルーグラスの歴史
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