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39 カントリー・ガゼットの遅すぎたデビュー

39 カントリー・ガゼットの遅すぎたデビュー_a0038167_9292695.jpg1972年にフライング・ブリトウ・ブラザーズの活動が終了すると、バイロン・バーライン、ロジャー・ブッシュ、ケニー・ワーツの3人はカントリー・ガゼットの再始動に向けて動き出します。バンジョー奏者のアラン・マンデをメンバーに迎えて再び4人組となった彼らは、ユナイテッド・アーティスツとの契約を得てようやくデビュー・アルバム「パーティの裏切り者」(A Traitor In Our Midst)を発表します。だがこの年にイーグルスがデビューしていることを考えると、ブルーグラスの伝統に従ったアコースティック楽器ばかりの編成のグループのデビューとしてはやや遅すぎると思わざるを得ません。

本来、ガゼットはマンデの代わりにディラーズにいたハーブ・ペダーセンという顔ぶれで1970年頃には結成されており、もっと早くデビューできたはずでしたが、その結成と前後してバイロン・バーラインがクリス・ヒルマンからブリトウズのツアーをサポートすることを頼まれてしまったのです。これを受け入れたことで第1次カントリー・ガゼットの活動は見送られてしまいます。そしてバーライン、ブッシュ、ワーツの3人はブリトウズと共にヨーロッパをツアーし、『Last Of The Red Hot Burritos』(残念ながらCD化されていません)を残します。

その後、ブリトウズのリーダーであったクリス・ヒルマン自身がグループを抜けてしまい、ブリトウズそのものが存亡の危機に瀕するのですが、ガゼット組は残ったリック・ロバーツと共にさらにツアーを続けます。1972年になってようやくブリトウズの存続は断念され、ロバーツはソロ・アーティストとしての道を歩き始めました。こうしてガゼットはブリトウズの束縛から解放され、ようやく自身の活動を始められるようになったのです。考えてみますと、バーラインはディラード&クラークが崩壊した時にも最後までダグ・ディラードを支えてエクスペディションに在籍し続けたことがあり、彼はどうも律儀な性格ゆえに損をしてしまっているのかも知れませんね。

とは言え、カリフォルニアのブルーグラス・ファンの期待に応えるべく用意されたこのデビュー・アルバムは、インストゥルメンテーションにおいても、ボーカル=コーラス・ワークにおいても、そして選曲においても、それまでにないほど斬新であり完全でありポップな感覚を持つ都会派ブルーグラスと呼べるものでした。つまりそれは1960年代のディラーズの活動を受け継いでロックの影響をものの見事に消化したブルーグラスだったのです。

もちろんバンジョーとマンドリンを中心としたディラーズのサウンドとは異なり、バンジョーとフィドルがその中心楽器となっていますが、彼らはそれにギターとアコースティック・ベースを加えた伝統的なブルーグラスの楽器編成でどこまでロックできるかという課題に応えて、バラエティに富んだ音楽を作り出しています。その結果、彼らは評論家たちから高い評価を得て瞬く間に西海岸から東海岸に至るまでその存在が知られるようになり、熱狂的な支持を受けたのでした。(この章は佐々木実さん作成のHPから一部を抜粋使用させていただいております。
http://www02.so-net.ne.jp/~m-sasaki/burrito_delux.html)


Traitor in Our Midst / Don't Give Up Your Day Job (BGO)
1. Lost Indian
2. Keep on Pushin'
3. I Wish You Knew
4. Hot Burrito Breakdown
5. I Might Take You Back Again
6. Forget Me Not
7. Tried So Hard
8. Anna
9. If You're Ever Gonna Love Me
10. Aggravation
11. Sound of Goodbye
12. Swing Low Sweet Chariot
13. Huckleberry Hornpipe
14. The Fallen Eagle
15. I Don't Believe You've Met My Baby
16. Deputy Dalton
17. Teach Your Children
18. My Oklahoma
19. Down the Road
20. Winterwood
21. Honky Cat
22. Snowball
23. Lonesome Blues
24. Singing All Day (And Dinner on the Ground)

収録されているのは1作目と2作目の合計24曲です。全編を通じて典型的なブルーグラス音楽であるドライヴのかかったパターンを縦横に使ったパワフルな作りとなっています。中でも耳を引くのは2曲目のジーン・クラーク作品「Keep On Pushin'」と「Tried So Hard」です。どちらもジーンのソロ・デビュー・アルバム『Gene Clark With The Gosdin Brothers』からの選曲ですが、これをガゼットが演奏するとオリジナルの悲しい曲調とは似ても似つかない明るい曲になります。

「Anna」はガゼットの第1次ラインアップの一員であったハーブ・ピダースンの作品です。郷愁を感じさせるメロディが印象的な佳曲で、ピダースン自身はこの曲には参加していませんが、「Forget Me Not」、「Swing Low Sweet Chariot」、「I Wish You Knew」の3曲にギターとヴォーカルでゲスト参加しています。

「Aggravation」はダグ・ディラードとバーラインの共作としてクレジットされています。多分エクスペディション時代の楽曲なのでしょう。また、バーラインとブッシュによるオリジナル「Hot Burrito Breakdown」は典型的なブルーグラスのインスト曲で、ディラーズあたりが演奏しそうな感じの曲です。ここでのガゼットの演奏も、アラン・マンデのバンジョーがずいぶん目立っています。いかにもガゼットらしいと思えるのが、冒頭の「Lost Indian」の編曲です。楽曲自体はトラディショナルで、バーラインのフィドルを中心に据えたインスト作品なのですが、曲の随所にインディアンの雄叫びのような声が入っています。こうしたエンタテイメント精神はディラーズがステージに持ち込んだことで有名ですが、ガゼットはそれをスタジオ盤にも持ち込んだわけです。アメリカン・コミックを意識したようなジャケット・デザインにも彼らのそうした姿勢がよく表れています。

元々ブルーグラス・バンドはアルバムとして通して聴くと単調に陥りやすいという欠点があります。それを補うにはインストと歌ものを交互に配置するといった程度のことしかなかなかできませんが、ガゼットの引き出しはなかなか豊富で聴き手を飽きさせません。その秘密のひとつがケニー・ワーツとロジャー・ブッシュという二人のリード・ボーカリストの存在です。大部分の曲でワーツがリード・ヴォーカルを担当していますが、たまにブッシュがちょっとコミカルな声でリードをとる曲が出てきます。これによって彼らのサウンドの幅がずいぶん広がっています。また、このグループにはブルーグラスにしては珍しくマンドリン奏者がいませんが、いくつかの曲ではバーラインが多重録音でマンドリンも弾いており絶妙の隠し味を提供しています。

それでもまだ足りないと思ったのか、続く2作目『Don't Give Up Your Day Job』では一部の曲にドラムとエレキ・ベースを導入するなど、更にロックとのハイブリッド路線を推進しています。一作目以上に対象となる音楽の枠が広がり、彼らの音楽的背景をよく表した作りがなされています。13曲目の「Huckleberry Hornpipe」ではゲストにバーズを退団した名手クラレンス・ホワイトの抜群のギター・ワークが聴かれ、各ヴァースで使われるアフター・ビートのシンコペーションが強烈に耳にこびりつきます。本家CS&Nよりも「空に広がるようなコーラス・ワーク」が素晴らしい「Teach Your Children」、ミュート・バンジョーの音が美しい「My Oklahoma」、フラット&スクラッグスの古典的名曲「Down The Road」やエルトン・ジョン作「Honky Cat」も彼らにかかれば一気にポップな色合いを帯びます。「Lonesome Blues」はハーブ・ピダースンの作品ですが、この曲でのアラン・マンデのバンジョーは難しいコード進行を一段と美しく弾いています。

この2枚のアルバムは彼らの意図するサウンドをもっとも的確に表現していて、西海岸ブルーグラス究極の傑作であると思われます。これをもって西海岸のブルーグラス界はガゼットという柱を中心にして甦ったかのような動きが出てきます。すなわち1960年代のブルーグラス・シーンであまりにも不遇だったクラレンス・ホワイトの返り咲きに始まり、ロック・バンド、グレイトフル・デッドのリーダーのジェリー・ガルシア、デビッド・グリスマン、リチャード・グリーンといったメジャーで有名なミュージシャンたちが、翌73年には、まるで忘れていた何かを思い出したように動き始めます。

しかし時代が既にブルーグラスを求めてはいなかったのか、評論家には高く評価されながらもカントリー・ガゼットのレコードは思ったようには売れませんでした。このため1975年にはバーラインがグループを脱退します。その後、ガゼットはローランド・ホワイトを迎え、アラン・マンデ、ロジャー・ブッシュの3人が中心となってメンバー交代を繰り返しながら活動を続けていきます。
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-09-17 09:27 | ブルーグラスの歴史
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