36 ブルーグラス界の真打ち登場

a0038167_949497.jpg1969年にカントリー・ジェントルメンを辞して以来、実質的にほとんど演奏活動を中断していたジョン・ダフィーが、この風変わりな名前のバンドを結成したのは1972年のことでした。彼らの名声、実績、人気は、バンドの結成が発表されると同時にブルーグラス界の注目を一身に集めるものでした。

結成当時のメンバーは、クリフ・ウォードロンのニュー・シェイズ・オブ・グラスからマイク・オールドリッジ(ドブロ、バリトン・ボーカル)と実兄のデイブ(ギター)、ベン・エルドリッジ(バンジョー)、そしてダフィーとカントリー・ジェントルメン時代に一緒だったトム・グレイ(ベース)に加えて、それまではまったく無名のジョン・スターリング(ギター、ボーカル)という6名編成でした(すぐにデイブが離脱し5人編成となります)。

彼らはその名前が示すように、「セルダム・シーン」(SELDOM SCENE)、つまり「めったに見ることのできない」存在だったのです。というのも彼らは他のブルーグラス・バンドと大きく違って、メンバー全員が昼間は社会的にも高度な技術を持つ職業に従事しており、演奏活動はいわば副業だったからです。だからといって彼らがアマチュア的な存在かと言うと、これが驚愕すべきテクニシャンの集まりですからそこらのセミ・プロとは大違いという訳です。彼らは週に1、2度、ワシントンD.C.エリアのライヴ・ハウスを拠点に活動し、それ以外はアルバム製作に時間を割くといったやり方で、堅実な道を選ぶことによってバンドを維持していきました。

新人のスターリングを除けば、それぞれが今までどんな活躍をしていたかは十分に知り尽くされていますし、またこのメンバーがどんなサウンドを創り出すのかは(単純に考えればカントリー・ジェントルメンとニュー・シェイズ・オブ・グラスを足して2で割ったようなものであることは)だいたい想像できました。ところが彼らのデビュー・アルバムを聴いた人びとは、その想像が外れていたことに軽いショックを受けると同時に、単純な計算では計りきれないサムシングが多すぎることに驚き、そして大喜びをしたのでした。

それは、ジョン・ダフィーがカントリー・ジェントルメンの時代から長年持ち続けていた音楽理念と、ブルーグラスの世界では全くの新人のはずのジョン・スターリングの音楽的センス、そしてマイクの華麗で優雅なドブロ、ベンのこれまた色彩豊かなバンジョー、さらにトムのタイトなフォー・ビート・ベースが加わったのですから、もうブルーグラス界では敵なしです。

彼らのレパートリーはとてもカラフルで、ビル・モンロー、フラット&スクラッグス、ドン・リーノウのブルーグラス系はもとより、ハンク・ウィリアムス、ボブ・ウィルス、マール・ハガードのカントリー系、リック・ネルソン、ジョン・プラインのポップス系、スターリングのオリジナル曲、それに当然のことながらカントリー・ジェントルメン時代の愛唱歌と、非常に幅広いレパートリーを次々と採用しています。

その選曲のひとつひとつは極度に用心深いバランスで考慮されており、ブルーグラスの岸から完全に足を離さない慎重さが伺えますし、ソフィスティケイトされた感覚で統一されたアレンジメントと、高度なテクニックによる演奏は、それまでのブルーグラス音楽からは数段高いところに位置していました。そして何より心地よい期待外れは、ジョン・スターリングのボーカル・センスのみごとなことでした。

Act 1 (Rebel)
1. Raised by the Railroad Line
2. Darling Corey
3. Want of a Woman
4. Sweet Baby James
5. Joshua
6. Will There Be Any Stars in My Crown
7. City of New Orleans
8. With Body and Soul
9. Summertime Is Past and Gone
10. 500 Miles
11. Cannonball
12. What Am I Doing Hanging 'Round?

バンド名を受けての「アクト1」という粋なタイトルがつけられた彼らのデビュー盤ですが、ジャケット・デザインも上半身が闇に覆われて「めったに見られない」(seldom scene)という憎い演出がなされています。このアルバムは1971年の発売当時、針を落とした(古い表現になりましたが…)誰もがそのサウンドに驚愕したという内容で、(60年代までの)古いブルーグラス音楽に親しんでいた人たちには、最初に軽い違和感を伴ない最後には新鮮さと不思議な充実感を与えるものでした。しかし30年以上経った今でも、聴くたびに十分に新しさを感じさせてくれます。

4曲目ジェームズ・テイラー作の「スウィート・ベイビー・ジェイムス」はブルーグラス界広しと言えども、スターリング以外にうまく歌いこなせる人はまずいないでしょう。また2、8、9曲目のような古いブルーグラス・ソングも歌のうまさとアレンジの新鮮さがプラスされて全くニュアンスの違ったものに聴こえます。とくに8曲目の「ボディ・アンド・ソウル」は先のニュー・グラス・リバイバルのアルバムと聴き比べると面白いでしょう。
(次回につづく)

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by scoop8739 | 2004-09-14 09:47 | ブルーグラスの歴史
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